競馬コラム北の国から vol.171

6月下旬から始まったサッカーのワールドカップが7月20日に閉幕した。決勝はスペインVSアルゼンチンの強豪同士の対決となりスペインが制した。日本は「死の組」と言われたグループステージF組を2位で突破し、ノックアウトステージ1回戦でブラジルと対戦。先制点を挙げながら逆転され1‐2で惜しくも敗退した。それでも日本代表チームの健闘に多くの国民は拍手を送ったことだろう。最終順位は1位スペイン(大会前FIFAランク2位)、2位アルゼンチン(同1位)、3位イングランド(同4位)、4位フランス(同3位)だったので、実力上位の4チームがそのままベスト4を占めたことになる。競馬で言えば「鉄板レース」だったと言えそうで、もし「3連単」を発売していたら20倍程度だったかもしれない。
一方で、日本−ブラジル戦を含めて、注目を集めた多くの試合で判定が物議を醸した。サッカーではVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)システムが導入されており、得点の有無、PKの判定、一発退場、警告・退場の人間違いの際にVARが介入できる仕組みになっている。審判はVARからのアドバイスを受けた際に、モニターのリプレイ画像の確認や報告により最終判断を下すことになる。システムとしてはしっかり確立されているようにも思えるが、それでも判定に対して各チームやサポーターからの不満が渦巻いた。わざと倒れてファウルをもらう「シミュレーション」が正確に判定されていないケースも何度か見受けられた。VAR介入ができる4つの状況以外は審判の裁量により判定されるため、ランク上位のチームばかりが残ったのは「審判が強豪国寄りの判定をしている」とのコメントが多く見られた。米国・トランプ大統領の介入疑惑に至っては、もし事実であるのなら断罪すべき出来事だろう。サッカーに関しては門外漢なのであくまでも個人的な感想になってしまうが、審判によって結果が大きく左右されてしまうようなスポーツはどうしても熱中できなくなってしまう一面がある。それはフィギュアスケート、アーティスティックスイミング、新体操、ボクシングなども同様で、私と同じような思いを抱いている人もいるのではないだろうか。
さて、本題の競馬である。今年6月、騎手、調教師から「降着・失格の裁決を求める申し立て」「不服申し立て」が相次いだ。6月27日の福島2R3歳未勝利戦で、坂井瑠星騎手騎乗のスターツトゥデイが1位、江田照男騎手騎乗のテンオンスゴールドが鼻差で2位入線となったが、両馬は最後の直線の激しい叩き合いで何度か接触しており、江田騎手は入線後に1位入線馬の進路の取り方について降着・失格の裁決を求める申し立てを行った。江田騎手が行った裁決委員に対してのこの申し立ては着順が確定する前に行うもので、申し立てがあった時点で裁決委員は「審議ランプ」を点灯し、正式に審議をスタートさせる。審議の結果、江田騎手の申し立ては却下され、入線順位通りにレースは確定した。江田騎手はレース後、「降着をアピールしたかったわけではなく、馬券を買ってくれたお客さんのことを考えて、やはり審議ランプが点いた方が良いと思った」と申し立てた理由を語っていた。
その翌日(6月28日)の函館記念では、2位入線だったケリフレッドアスクを管理する藤原英昭調教師が、1位入線のファウストラーゼンが最後の直線で外側に斜行しケリフレッドアスクの進路が狭くなったことに対して降着の裁決を求める申し立てを行った。申し立ては棄却され着順通りに確定したが、藤原師はこの棄却に対してその取り消しを求める不服申し立ても行った。7月7日に裁定委員会が開かれ不服申立人(藤原調教師)および裁決委員からの意見陳述やパトロールビデオの検証が行われ、棄却の裁定が下された。この函館記念は女性騎手の小林美駒騎手が重賞初勝利したレースでもあり、裁決を巡るこの申し立てはより一層ファンの注目を集めていた。また、前日の坂井騎手は過怠金3万円の処分だったが、小林騎手は4日間の騎乗停止処分で、著しい斜行が認められたのに降着にならなかったことに対してファンが不信感を募らせた面もあった。
江田騎手や藤原師がこのような申し立てを行った背景には、現行の降着・失格ルールが「甘いのではないか」という疑念がある。この降着ルールは競馬の国際化に伴い、海外の主要国に倣って2013年から本格導入されたが、この13年間で降着になったのはわずか24件で、年間平均2件にも満たない。以前の「失格制度」では年間30〜40件の失格処分があったため、それに比べると15〜20分の1程度の処分になっている。降着となるのは加害馬の走行妨害がなければ明らかに被害馬が先着したと判断されるケースであり、裁決委員も判断を下しにくい面がある。ただ、これだけ降着処分が少ないと「ラフな騎乗はやった者勝ちになってしまうのではないか」とファンからの不信感が大きくなるし、ラフプレーによる事故を心配するファンも多い。また一部には「著名騎手は降着にならない」「著名オーナー、牧場は有利に判定される」などという風評がまことしやかに流れてしまうこと、そのような根拠のない噂話を信じてしまうファンも一部にはいることも、競馬にとってはマイナス要因になっているように思われる。
「審判」はスポーツの要であり、その信頼が揺らぐとファンの熱気が冷めてしまいかねない。サッカーもそうだが、金銭が賭けられている競馬ではなおさらだ。国際化されている競馬では、海外と統一のルールにすることも確かに重要だが、日本の方が優れているルールもある。むしろ、海外に日本のルールに合わせてもらえるように働きかけることもできるはずだ。この機会に降着制度をもう一度見直していくべきではないだろうか。