お酒とマナーのマリアージュ 第19回

皆さま、こんにちは。「お酒とマナーのマリアージュ」へようこそ。
ようやく暑さが落ち着き、朝晩の涼しさを感じる季節になりました。夏は「とりあえず生!」という声がよく聞かれます。ところが秋になると、お客様の過ごし方が少し変わってきます。
日が短くなり、夜が長くなるこの季節。お店で過ごす時間も、どこかゆったりと流れるようになります。
「今日のおすすめは何ですか?」、「この料理にはどんなお酒があいますか?」そんな会話が、夏より増えるように感じます。
昔から日本には、秋思「しゅうし」という言葉があります。秋になると、ふと物思いにふけったり、人の温もりが恋しくなったりする気持ちを表した言葉です。人の心は少し内側へ向き、人とのつながりを心地よく感じられる。秋は、そんな季節なのかもしれません。
近年は、タッチパネル注文やスマートフォンでの予約、SNSでの情報収集など、お客さまとスタッフが言葉を交わす機会は以前より、少なくなりました。だからこそ、お客様からいただく一言は、とても貴重なコミュニケーションの始まりです。
それは、単に「おすすめ」を知りたいだけではありません。「このお店なら聞いてみようかな」そう思っていただけた証でもあります。
では、その一言は、どこから生まれるのでしょうか。私は、特別な接客技術よりも、お客様が「声をかけても大丈夫」と感じられる空気の積み重ねが大切なのだと思っています。
例えばこんなお店です。
•スタッフが慌ただしく動き回っていない。
•店内全体に落ちついた空気が流れている。
•目が合えば、やさしく微笑み返してくれる。
•スタッフ同士のやり取りにも、落ち着きと温かさがある。
•「何かありましたら、いつでもどうぞ」という気持ちが、言葉にしなくても伝わっている。
こうした小さな積み重ねが、お客様の「聞いてみようかな」という気持ちにつながります。
客室乗務員として働いていた頃、「サービスはお客様に安心感を持っていただくことから始まる」と教えられました。通路を歩くときは、一人ひとりのお客様の様子に気を配り、目があえば笑顔で応える。「何かありましたら、お気軽にお声がけください。」そんな気持ちを、言葉よりも先に態度で伝えることを大切にしていました。
その習慣は今も変わりません。飛行機に乗客として搭乗しても、つい周囲に目を配りながら歩いてしまいます。すると「オレンジジュースをお願いします」と声を掛けられることがあります。思わず笑ってしまう出来事ですが、人は「安心して、話しかけられる雰囲気」を敏感に感じ取るのだと思います。
以前は、お客様が声をかける前に気づき、先回りして対応することが「良いサービス」とされていました。もちろん、その考え方は今も大切です。
しかし、デジタル化が進んだ今、お客様との距離感は少しずつ変わってきました。必要以上に話しかけるのではなく、必要なときに安心して声をかけていただけること。そんな環境をつくることも、これからのサービスの大切な役割なのかもしれません。
SNSやインターネットには、お店の情報があふれています。料理やお酒の特徴、店内の様子も、来店前に知ることができる時代です。
だからこそ、お店でしか味わえない価値があります。
それは、お客様との何気ない会話です。「おすすめは何ですか?」人気商品をご案内することも、もちろん大切です。ただ、メニューに書かれている内容を、そのまま説明されるだけでは、少し物足りなく感じることがあります。
一方で、「今日は、どんな気分ですか?」、「軽めがお好きでしたら、こちらもおすすめですよ」そんな一言が返ってくると、「私のために選んでくれている」という温かさを感じます。
秋は人と人との距離が少し近づく季節です。
お客様が安心して声をかけられる店には、自然と会話が生まれます。そんな何気ないやりとりが、お客様の時間を少し豊かにし、忘れられないひとときへとつながっていくのではないでしょうか。

