シェリー 167 - ダブル・テロワール

シェリーの世界で最近聞くようになった言葉に「ダブル・テロワールDoble Trroir」があります。5月30日から3日間シェリーの都ヘレス・デ・ラ・フロンテラで開催されたノーブルなワインのフェアVINOBLE 2026でも、シェリーの統制委員会会長セサル・サルダーニャ氏がテイスティング・セミナーで「ヘレスはダブル・テロワールの地」というタイトルでシェリー造りに特有な2つのテロワールを語りました。
ちなみにVINOBLEというのはシェリーやポートのような長い歴史を持つ、世界の酒精強化ワインと甘口ワインをノーブルなワインと称し、隔年に開催する、国際的なワイン・フェアです。
通常、ワインのテロワールはブドウ畑を取り巻く気候・土壌・地形・日照・風といった自然条件に人間の手が関与する栽培・醸造方法を含めた概念を指しています。シェリーの場合はヨーロッパ最南端のワイン産地で1年間に晴れの日が300日、年平均降水量約600㎜、海から吹く涼しく湿気の多い風ポニエンテと内陸から吹く熱く乾燥した風レバンテ、そして石灰質で保水性が高い真っ白なアルバリサという土壌+伝統的な栽培方法というのがベースになるワイン造りのテロワールです。
ただ、シェリーになるには、その先の行程が重要です。原則オーク材の樽で2年以上熟成しなければなりません。新樽は使用しないため、樽の入れ替えがありません。熟成樽は壊れない限り動かされることなく、100個であろうが1000個であろうが、熟成庫内に3~4段に積まれたままです。中には前世紀、前々世紀に入れられて以来ずっと継ぎ足されながら、熟成し続けているワインが入っています。それが、夏は40℃に至るスペインの南の端で、自然の条件に抗うことなく維持され続けています。
シェリーの熟成庫(=ボデガ)は地下の蔵ではありません。カテドラル(大聖堂)に例えられる、地上の巨大な建物です。壁は厚さ数十センチから1mにも及びます。これは強い直射日光の熱を遮断するためです。壁の外側にブーゲンビリアを這わせているボデガがよくありますが、外観の美しさはともかく、グリーンカーテン効果の方が重要な役割を担っています。隣の建物との間の通路が狭いのも、日陰を作るためです。天井が15mに至るほど高く、それを支える長い柱がまさに荘厳な教会の柱のように聳えています。天井が高いのは、暖かい空気が上に昇る原理を利用するため。温まった空気が、積まれた樽の高さよりさらに上に溜まるだけの広大な空間を保持するための構造です。
では上に昇った暖かい空気はどうするのでしょう。ボデガの壁には上の方に窓が付いています。昼間は閉めてありますが、日が落ちて涼しくなったころ、大きな扉と高い窓を開けます。すると大西洋から吹く涼しい風が扉から入り、温まった空気は上の窓から外へ押し出されていきます。翌朝、太陽が昇る前に窓も扉も締め、涼しい空気を閉じ込めます。これを繰り返して、自然換気をしています。ボデガが北西―南東方向に建ててあるのも、直射日光を浴びにくく、海風を取り入れやすい方角だからです。
湿度を維持するためには床にアルベロという吸水性の高い砂を敷き、必要に応じて水を撒くという方式で、年間を通して70%前後を維持しています。
クーラーも断熱パネルも除湿器も使わない、自然の摂理を賢く取り入れたシェリーのボデガはまさにもう一つのテロワールと言えるでしょう。
