データで読み解くインバウンドの「飲食・酒」考現学 vol.6

外国人たちに映る“酒場”の心象風景
訪日客で賑わいを見せている各都市やその繁華街の外食シーンでは(店が)「選ばれる」条件に、“より質的なこと”つまり「ニッポンらしさ」の問題も大事なテーマです。業態の特徴とノウハウを活かした店構えからメニュー、価格やサービスまで、立体的な仕組みと運営が「選ばれる」店となり、インバウンド市場は自国(業界・業態)を見直すキッカケにもなります。

訪日「動機」は欧米は文化体験、アジアは満足達成
✓欧米では「特別な体験」への期待が最も高く、次いで「日本の食事」。一方、韓国では「日本の食事」が最上位で、台湾でも高いスコアを示しています。
✓特徴なのは、「日本文化」と「日本の食事」の位置づけです。欧米豪では「特別な体験」と「日本文化」への関心が高い一方、韓国や台湾では「日本の食事」が旅行動機の中心です。ただし、中国では「特別な体験」への期待が欧米並みに高いことも特徴です。
✓背景には、近距離のアジア圏ではリピーターが多く、「食べ歩き」や人気店巡りが目的になりやすいこと。一方、遠距離から訪れる欧米豪では、日本の文化や暮らしへの関心が高いようです。飲食店に求めるものも、アジアは人気メニューや限定感、欧米は文化やストーリーを楽しむ体験を望む傾向です。
ニッポンの飲食タイムそのものが「旅の目的」
✓飲食サービス市場は、単なる客数増や注文単価だけでは語れません。 訪日客の期待が商品から「体験」へ移る中で、飲食・酒シーンそのものが「旅の目的」にもなっています。
✓例えば、日本酒は味わうだけでなく蔵元や地域のストーリーに触れること、焼酎は料理との組み合わせを楽しむこと、カウンター越しの店主との会話などです。こうした体験は、居酒屋や立ち飲み、スナック、バーなど、様々な業態が受け皿でもあります。
✓一方で、こうした価値(特長など)が訪日前や店頭では伝わりにくい実情もあります。大切なのは、新しい体験をつくることではなく、すでにある評価や魅力を見直し、「体験」という視点で商品やサービスを進化させることも求められています。

「飲食費」は「削りにくい」支出項目
✓「体験」への関心が高まる中、日本の料理やショッピング、伝統文化、地域文化など交流型コンテンツへの期待も上昇しています。中国に代表される「爆買い」の時代から変化し、現在は宿泊・飲食・レジャーが訪日の3大消費項目となっています。
✓飲食費の支出先は訪日客の地域差も見られます。欧米豪は食事も「体験」と捉えられ、「口コミ」を参考に日本料理や高額コースの店が人気です。一方、アジア(中国・韓国・台湾)では、SNS映えや庶民的な雰囲気の店を選ぶ傾向が高いようです。
✓ショッピングは予算調整しやすい一方、飲食費は毎日の楽しみであり、その土地にも触れる「体験」そのものです。そのため、旅行消費の中で維持されやすい支出であることがうかがえます。

「興味ある」が「入らない」という選択の“謎”
✓都市や地方の繁華街に並ぶ多彩な飲食店やナイトカルチャーの主役と言われる、とりわけ路地裏の酒場や隠れ家的な店は、訪日客の関心を集めています。しかしながら、暖簾や赤提灯、入りづらい店構えにハードルを感じる訪日客も少なくありません。
✓店内の様子が見えない、英語が通じるか分からない、メニューや料金体系が分かりにくい、現金のみの対応かなど…こうした「小さな不安」が重なり、入店をためらうケースも多いようです。
✓「興味はあるのに入らない」という心理は、「入店前に見て判断できる情報が少ない」ことが大きな理由です。店頭に価格の目安や席料の有無、歓迎メッセージ、店内写真を示すだけでも、不安を期待へ変えるきっかけになるのではないでしょうか。
「体験」志向が高まるインバウンド市場において、各地の“酒場”はナイトカルチャーの「体験」コンテンツとして興味を惹く存在になっています。とは言うものの、「興味あるが店に入らない」という“謎”も多いのも現実です。本特集では、その“謎”に関わる情報(主に「口コミ」)を取り上げ、その“正体”に迫ってみました。「自分の店の場合、何をどうできる」などのヒントになれば幸いです。

「疑問」や「不安」を取り除く一言(見える化)
✓訪日客が求めるのは、日本ならではの空間や人との交流を楽しむ「体験」です。そのため、「興味はあるが入れない」という不安や疑問を解消することが先決になります。
✓海外の口コミでは、言語の壁以上に、「チャージ料金」や「予約の有無」、「一人でも利用できるか」といった基本情報への戸惑いが多く見られます。完璧な外国語対応よりも、安心して入店できる“歓迎の見える化”情報が大切です。
✓「Welcome(ようこそ)」や「Solo guests welcome(お一人様歓迎)」といった一言を添えるだけでも、心理的なハードルは大きく下がります。店の魅力を分かりやすく伝え、安心して体験できる環境を整えることが訪日客へ接客の第一歩と言えそうです。

ナイトカルチャー(スナック、バー等)の小宇宙
✓海外ではナイトライフ、ナイトカルチャーは娯楽や消費の場ですが、日本の“酒場”は文化体験の場として評価が高まっています。日本人には当たり前の飲食文化も、訪日客には新鮮で魅力的な対象として映っています。
✓繁華街や路地裏の小さなスナックやバーは、日本の日常を体感できる場所。そのような“酒場”は、個性的なメニューや店主・常連との会話、その土地ならではの空気感が重なり、一つひとつの店が小さな文化空間をつくり出しています。
✓他方で、「一見さんお断り」など閉鎖的な雰囲気が残る店もありますが、国や文化を超えて人を温かく迎え入れる姿勢こそが、人を惹きつける大きな魅力になるのではないでしょうか。

「興味」×「安心」を結びつけるもの
✓「選ばれる」店の第一は、「歓迎されている」と感じさせる雰囲気が重要。笑顔で迎える、席案内の際に一言添え、おすすめを分かりやすく伝えるなど、ホスピタリティあふれる接客が安心感と満足度につながります。
✓安心感はSNSの情報だけでなく、店全体の明るさや清潔感、居心地のよいリアルな空気感が最も響くものです。一つひとつの積み重ねが「この店なら安心」という印象に繋がります。外国人向けに特別な店をつくるのではなく、初めて訪れる人にも店の特長や個性が伝わる工夫で、「興味」と「安心」を結びつけることが大切です。
「期待」は異なっても、「安心」は世界共通
✓今回の実態や情報から、訪日客の飲食や酒のシーンでは、高価で豪華な商品やサービスよりも、日本ならではの個性や店ごとのオリジナリティに関心が集まっていることが分かります。
✓ニッポンの“酒場”が育んできた価値や魅力は、時代に合わせたバージョンアップも必要ですが、新しいものへ変えるだけではなく、本来の価値や魅力を相手に応じた伝え方の工夫が「鍵」にもなっています。それは、訪日客だけでなく日本人からも「イイね!」と言われる店づくりに他なりません。
✓訪日客という鏡を通して見えてくるのは、ニッポンの“酒場”が本来持つ価値や魅力の再発見と進化の糸口でもあります。世界を惹きつけるニッポンの“酒場”の魅力を、これからさらに発揮していきたいものです。
こちらの特集は、『コミュニケーション科学研究所』のご協力のもと調査。社名の通り“コミュニケーションを科学する”視点を持ちながら、調査研究をしています。
あらゆる分野において膨大な情報より分析・解析がされ、その実績は多岐にわたります。