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一杯で変わる店づくり 第四回

一杯で変わる店づくり 第四回

 かつて日本酒は、「辛口か甘口か」「吟醸か純米か」といった、いわゆるスペックや分類で語られることが多くありました。しかし近年、日本酒の個性を語る上で欠かせない存在となっているのが「酒造好適米(酒米)」です。代表的な酒米である「山田錦」はふくらみと品格を感じさせる味わいを生み、「雄町」は力強さと複雑味、「美山錦」は軽快で透明感のある酒質を表現すると言われています。まるでワインにおけるブドウ品種のように、日本酒も“米で選ぶ時代”へと変化しているのです。  
その背景には、酒蔵の発信力の変化があります。各蔵が契約栽培や復活米、地元品種への挑戦を進め、「どんな米を、どんな想いで使っているのか」を積極的に伝えるようになりました。消費者もまた、米による味わいの違いを楽しむようになり、日本酒の世界はさらに奥深いものとなっています。  
そして今、酒造好適米をめぐる流れは、さらに次の段階へと進んでいます。近年は、全国各地で“その土地ならではの酒米”が活発に開発されるようになりました。かつて日本酒の世界では、全国的に評価の高い「山田錦」などを使うことが一つの品質基準でもありました。しかし現在は、「どこでも同じように良い酒」ではなく、「その土地ならではの味わい」が重視されるようになっています。  
さらに、日本酒が海外でも注目される中で、“テロワール(風土・土壌)”という考え方も広がりました。水、気候、土壌、食文化――その土地の個性を酒に映したいという意識が高まり、各県が地元の風土に合った酒米開発に力を入れるようになったのです。  
その動きの中の一つに、京都の酒米「祝」があります。なんとも縁起のよい名前を持つこの米は、京都生まれの酒造好適米ですが、一度は生産が減少し、長く姿を消していました。  
1990年代後半から2000年代にかけて、京都の酒の個性を見直す動きが高まる中、この「祝」を再び酒造りの中心に据えようと、中心的な役割を果たしたのが、伏見の齊藤酒造でした。現在でも、京都の酒蔵の中で、とりわけ「祝」に力を注ぐ蔵として広く知られています。  
「祝」の特徴は、やわらかく穏やかで、角の立たない味わいに仕上がりやすいことです。派手さよりも料理に寄り添い、飲み疲れしない“包み込むような酒”になりやすい米であり、まさに京都の食文化にぴったりと合うお酒が生まれます。齊藤酒造は、「料理の引き立て役となる食中酒」を基本精神に掲げ、京都らしいやわらかな酒質を追求してきました。  
庄司酒店でも取り扱いのある代表銘柄「英勲」は、まさに京都らしい酒を象徴する一本といえるでしょう。料理に寄り添い、飲み飽きしない味わいを、ぜひチェックしてみてください。  
このように、現代において酒米は単なる原料ではなく、その土地らしい味わいを表現する“格”ともいえる存在になっています。日本酒は今、“蔵で選ぶ酒”から、“土地を感じる酒”へと変化しています。  
飲食店にとって、大切なのは難しい説明ではありません。お客様に提供する際、「このお酒、京都の伝統的なお米で造られているんですよ」「お出汁の効いたお料理や、優しいおばんざいにぴったりです」とその一言を添えるだけでも、お客様の体験はぐっと深くなります。「土地の味には、土地の酒が合う」という最高のペアリングを、お店の物語として伝えることができるのです。  
日本酒は今、“飲む酒”から、“土地や物語を感じる酒”へ。だからこそ飲食店には、ぜひ“土地を語れる一杯”を、お客様のもとへ届けていただきたいと思います。

日本酒スタイリスト 島田律子