競馬コラム北の国から vol.168

この原稿を書いている4月半ば時点で、初年度産駒が4歳の種牡馬サートゥルナーリアがJRAリーディングサイアーで9位という好成績になっている。まだ2歳馬がデビューしていない時期のため4歳と3歳の2世代だけの成績でこの順位は立派なもの。来年以降はリーディング上位に顔を出してくるのは間違いなさそうだ。このリーディングサイアー上位には、4位にエピファネイア、12位にリオンディーズがランクインしているが、この両馬はサートゥルナーリアの半兄(いずれも母はシーザリオ)にあたる。5位以下は僅差なだけに、最終的に3兄弟種牡馬がベスト10に入るという快挙も夢ではないだろう。
これまでも兄弟で種牡馬入りする例は数多くあった。最近の例ではブラックタイド、ディープインパクトの全兄弟(父サンデーサイレンス、母ウインドインハーヘア)が、ともに種牡馬として大成功を収めている。現役時代は重賞1勝だけだった兄ブラックタイドは、サンデーサイレンス産駒種牡馬が馬産地に溢れ返っている状況を考えると、弟ディープインパクトの大活躍がなければ種牡馬入りはできていなかったかもしれない。だがブラックタイドはキタサンブラックという後継種牡馬を輩出しており、その産駒イクイノックスも種牡馬入り。今後もクロワデュノールなどその血を継承していく存在が続出しそうで、父系の継承という面ではディープインパクト以上の存在感を示している。さらにこの2頭の全弟である重賞未勝利のオンファイアも種牡馬入りして重賞3勝のウキヨノカゼなどを輩出しており3兄弟種牡馬としてもまずまずの成績となっているが、シーザリオ3兄弟のようにリーディング成績でいずれも上位という活躍ではない。
シーザリオ産駒3兄弟種牡馬がウインドインハーヘア産駒3兄弟と大きく違う点は、3頭がいずれもGⅠ勝ち馬であり、しかもGⅠ勝ち馬の父になっていること。そして3兄弟の父がいずれも違うことだ。シーザリオ(父スペシャルウィーク)はデビューから無傷の3連勝でフラワーC制覇。無敗のまま臨んだ桜花賞でラインクラフトに頭差2着と惜敗したが、続くオークスではゴール前でエアメサイア、ディアデラノビアを一気に差し切って戴冠を果たした。その後はアメリカン・オークスを目指して米国遠征。後のシンハライトの母となるシンハリーズ、イスラボニータの母となるイスラコジーンなど欧米から超一流3歳牝馬が集結する中、2着に4馬身差をつけレコードタイムで圧勝した。日本調教馬が米国GⅠを勝ったのはこれが初めてのことだった。6戦5勝2着1回と見事な成績を残していたシーザリオだったが、その後に脚部不安を発症し結局アメリカン・オークスを最後に引退、ノーザンファームで繁殖入りした。
その3番子となるのがエピファネイア(父シンボリクリスエス)。皐月賞、ダービーは2着だったが菊花賞を制し、4歳時はジャパンCに優勝。種牡馬入り後はデアリングタクト、エフフォーリア、ダノンデサイル、ブローザホーン、ステレンボッシュ、テンハッピーローズとGⅠ馬を次々に輩出。リーディングサイアー順位は24年3位、25年5位と、すでにトップサイアーの仲間入りを果たしている。
6番子がリオンディーズ(父キングカメハメハ)で、同馬は新馬、朝日杯FSを連勝。年が明けると弥生賞2着、皐月賞4位入線(5着)、ダービー5着とひと息の成績が続き、菊花賞での巻き返しを図っていた秋シーズンに屈腱炎を発症して引退。種牡馬入りとなった。その産駒はテーオーロイヤルが天皇賞(春)、ミュージアムマイルが皐月賞、有馬記念を優勝。サンライズホーク、ロードクロンヌなどダートでの活躍馬も多く、25年リーディングは6位に躍進した。
そして9番子がサートゥルナーリア(父ロードカナロア)。デビューから無傷の4連勝でホープフルS、皐月賞制覇。ダービーは4着に敗れたものの、3歳で挑んだ有馬記念はリスグラシューの2着に健闘。脚部不安があって4歳で引退したが、種牡馬入りすると初年度産駒からショウヘイ、ファンダム、2年目産駒からは朝日杯FS勝ち馬カヴァレリッツォを出して、3兄弟種牡馬がいずれもG1勝ち馬の父となった。
さらに、シーザリオの11番子ルペルカーリア(父モーリス)も今春から種牡馬入りしている。同馬はJRA2勝で兄たちと違いGⅠ勝ちはないものの、兄たちに比べて格安の50万円(エピファネイア1500万円、リオンディーズ500万円、サートゥルナーリア1000万円)という種付け料が設定されたため、シーザリオの血を求めて種付け申し込みがある程度は確保できそうだ。25年の種付け頭数はエピファネイア198頭、リオンディーズ93頭、サートゥルナーリア139頭。3兄弟で430頭もの牝馬を集めたことになる。これも記録的な出来事だが、ルペルカーリアが加わる26年はさらに兄弟交配頭数記録を伸ばすかもしれない。
世界的なホースマンが異口同音に口にする言葉が「名馬をつくることは可能だが、名種牡馬をつくることは至難の業である」ということ。どんな超一流の競走成績を残した名馬でも、現役引退後に一流種牡馬になれるとは限らない。むしろ、ほとんどのケースで種牡馬としては失敗していると言っても過言ではない。3冠馬となったミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、オルフェーヴルも種牡馬としては大成功とは言えず、現3歳世代が初年度産駒のコントレイルも現時点ではやや苦戦している。ディープインパクトだけが例外的な大成功だったのだ。あれだけ強かったテイエムオペラオー、オグリキャップ、メジロマックイーンも名種牡馬と言える成績ではなかった。それは世界的に見てもほぼ同様だ。だがシーザリオという1頭の繁殖牝馬は、3頭もの名種牡馬を送り出している。しかも父親がいずれも違うということは、血脈に幅を持たせているという点でも貴重なこと。
ぜひシーザリオをJRA顕彰馬に選出してもらいたいと筆者は思っている。