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一杯で変わる店づくり 第二回

一杯で変わる店づくり 第二回

 山梨県酒造協同組合主催による、県内6蔵の日本酒を紹介する試飲会立食パーティーが、東京・代官山のイノベーティブベトナム料理店「Nén Tokyo」で開催されました。山梨県と聞くと、「ワインの産地」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実は日本酒においても、魅力的な銘酒が揃っている地域なのです。  その証のひとつが、国が産地ブランドとして認める地理的表示(GI)。山梨県は、ワインのGI「Yamanashi」に加えて、日本酒でもGI「山梨」の指定を受けています。同じ県で二つの酒類がGI認定を受けているのは全国でも珍しく、山梨の酒文化の豊かさを感じさせます。  
GI「山梨」の日本酒の特徴は、透明感のある清らかな味わいにあります。その要因としてまず挙げられるのが水です。山梨県はミネラルウォーターの出荷量日本一としても知られ、南アルプス、八ヶ岳、富士山といった名山に囲まれた地形から生まれる豊かな水資源に恵まれています。こうした良質な水は、酒造りにおいて大きな強みとなっています。  
さらに興味深いのが、GI「山梨」のユニークなルールです。仕込み水においては、「南アルプス山麓」「八ヶ岳山麓」「秩父山麓」「富士北麓」「富士・御坂」「御坂北麓」という6つの水系に限定されています。今回のイベントでは、その仕込み水そのものを飲み比べる機会もありました。実際に飲んでみると、水ごとに味わいの違いがあり、「水が違えば、酒も変わる」ということを実感できた、とても印象的な体験となりました。  
そしてもうひとつ、山梨の日本酒を語るうえで欠かせないのが食文化です。山梨県は海に面していないため、古くから海産物は塩蔵や干物として運ばれてきました。甲州味噌に代表されるように、塩味を活かした食文化も発展しています。さらに、甲州街道を行き交う旅人をもてなす中で、保存性や滋養を意識した、やや塩気のある料理が育まれてきました。そうした料理に寄り添うように、やわらかく、透明感がありながら、塩味と自然に調和する酒質が育まれていきました。山梨の日本酒には、そんな“食中酒としての心地よさ”があります。実際、当日はベトナム料理とのペアリングも行われたのですが、塩味にハーブや香辛料の爽やかさが重なる料理に対しても、山梨の日本酒は驚くほど自然に寄り添います。軽やかな飲み口と澄んだ旨味が料理を引き立て、食中酒としてのポテンシャルの高さを改めて感じさせる組み合わせでした。  
さて、飲食店で日本酒を提供する際、「すっきりしています」「飲みやすいです」といった言葉だけでは、その魅力はなかなか伝わりません。どんな水で造られているのか。どんな土地で、どんな食文化とともに育まれてきたのか。そんな背景をひとこと添えるだけで、お客様の感じ方はぐっと深まります。例えば山梨の日本酒なら、「山梨は海がない土地なので、塩気のある食文化が発展してきました。その料理に合うように、透明感がありながら塩味と調和する酒質が育まれているんです」そんな一言があるだけで、ぐっとイメージが広がります。  
日本酒の魅力は、味わいそのものだけでなく、その土地の自然や歴史、食文化とつながっているところにあります。その背景ごとお客様に届けられることが、飲食の現場における日本酒サービスの価値を高める大切な要素と言えるのではないでしょうか。

日本酒スタイリスト 島田律子