競馬コラム北の国から vol.159

7月14、15日に開かれたセレクトセール2025は、今年も驚異的な売上を記録した。初日の1歳セール、2日目の当歳セールの2日間合わせた売上総額は327億円(価格はすべて税別)で、過去最高だった昨年の289億1800万円を38億円近くも上回った。上場頭数は467頭で取引頭数は453頭、落札率は97・0%。これも昨年の96・4%を上回る過去最高で、1億円以上の取引馬は昨年の64頭から86頭に大幅増となった。こちらももちろん新記録である。
圧巻だったのは、予想通りにキタサンブラック産駒だった。1歳は11頭の上場・売却で総額24億8千万円、平均約2億2500万円。「モシーンの2024」(牡)が4億2千万円、「ノームコアの2024」(牡)が4億1千万円、「ラビットランの2024」(牡)が3億2千万円と、1歳セールの高額落札上位3頭を占めた。当歳は13頭の上場で11頭売却と2頭が主取になったものの、売却総額18億6600万円、平均約1億7千万円。最高価格は息子のイクイノックス産駒「ミッドナイトビズーの2025」(牡=5億8千万円)に譲ったものの、2番目となる5億円で「シンプリーグロリアスの2025」(牡)が落札された。1歳は11頭の落札馬のうち10頭、当歳は11頭の落札馬のうち8頭が1億円を超えており、キタサンブラック産駒で水準以上の母親を持ち目立った欠点のない馬が生まれてくれば、牡牝に関わらず1億円を超えるのが当たり前という状況になっている。
前号でも紹介した通り、キタサンブラックの種付け料は2018〜22年は300〜500万円で推移していたが、初年度産駒イクイノックスらの大活躍で23年1千万円、24、25年は2千万円となっている。今年はクロワデュノールが日本ダービーを制しており、セレクトセールでの落札額を考えると来年は2500万円程度に値上がりすることも考えられるが、それでも種付け申し込みは殺到するだろう。海外のセールなどで1億円レベルの良血繁殖牝馬を導入し、減価償却として年2千万円を計上したとしても、産駒が5千万円以上で売却できれば利益が出る計算が成り立つ。不受胎や流産などのリスクを加味しても、1億円で売却できれば2〜3年で繁殖牝馬導入費がペイできるのだから、生産者にとっては投資効果が極めて大きい。良血繁殖牝馬との交配がさらに増えれば活躍産駒の生まれる確率も高まるので、サンデーサイレンス、ディープインパクトに続く「キタサンブラック時代」が到来することは間違いなさそうだ。
初年度産駒が当歳セールに初登場したイクイノックスも素晴らしい成績を残した。24頭が上場されて23頭が売却。売上総額35億6500万円は、当歳の種牡馬別では断トツの最高額。平均価格1億5500万円はキタサンブラックにはわずかに及ばなかったものの、2頭以上が取引された種牡馬の中では2位となった。当歳最高価格となった「ミッドナイトビズーの2025」以外にも、「ゴーイングトゥベガスの2025」(牡)が4億5千万円で3位、「グローバルビューティの2025」(牡)が3億1千万円で5位と、ベスト5に3頭が食い込んだ。父キタサンブラックと違い、まだ産駒実績がまったくない中でこれだけ高く評価されるのはまさに異例な出来事だったと言える。
キタサンブラック産駒もひと目見ただけで父の産駒であることがはっきりと判る筋肉質の雄大な体型をしている馬が多いが、イクイノックス産駒は顔面の大きな流星という特徴が産駒に受け継がれているケースが多く、遺伝力の強さを感じさせていた。産駒がキタサンブラックのように活躍するかどうかは走ってみないと判らない不確定要素もあるが、父に似た子を出す種牡馬は活躍するケースが多いし、何よりも交配牝馬のレベルが極めて高いので、大失敗することはほぼ考えられない。キタサンブラック〜イクイノックス親子が少なくとも今後10年間は種牡馬界をリードしていくことになりそうだ。
ただ、セール全体の平均価格が約7224万円と昨年に比べて1千万円近くも上昇し、過去最高を大幅に更新していることは、馬主に対しての影響がかなり大きいことも想像できる。セール後に主催者である日本競走馬協会の吉田照哉会長代行(社台ファーム代表)が「高額馬を落札する馬主は、もう採算は度外視している。欲しい馬を自分の手に入れたいという思いで落札している」と分析していたように、86頭となった1億円以上の取引馬のうち競走での収得賞金で1億円を超えるのはせいぜい3分の1程度だろう。もちろん大活躍して将来は種牡馬となって大きな利益をもたらす名馬が誕生するという夢はあるが、トータルでは大きな損をすることを覚悟の上で馬を買う一部の富豪馬主がこれだけ増え、相場全体が上がってしまうと、一般的な馬主層は購買がかなり難しくなり、馬主を継続できなくなる人が出てくるかもしれない。いずれサラブレッド・バブルが崩壊した時にどのような事態が起きるのか、予見しながら準備していくことも生産界には求められている。