競馬コラム北の国から vol.157

フォーエバーヤングやウシュバテソーロらの海外大レースでの大活躍や、地方競馬での3歳ダート3冠路線の整備などもあり、ダート競馬がかつてないほどの盛り上がりを見せている。以前は「ダート馬」は「芝馬」と比べて格下に見られる時代が続いていた。「競馬の最大の魅力はスピードであり、ダート競馬はスピードのない馬、脚元に不安がある馬、地方競馬に活路を見出す能力の低い馬のレース」と見られがちだった。だが日本の芝のスピード競馬はあまりにも時計が速くなりすぎていて「時計の掛かる馬場で行われる凱旋門賞など、欧州のレースでなかなか好結果を出せていない。世界的に見るとむしろ日本の芝はガラパゴス化している」という見方も出てきた。これまでは日本とは異質の米国ダート競馬に挑戦する日本馬はごく僅かだったが、2021年にマルシュロレーヌが米国ダート牝馬路線の最高峰ブリーダーズカップディスタフを制したことで流れが変わり、ケンタッキーダービーやブリーダーズカップのダート各レースへの出走は、通常の路線になりつつある。ダート馬の評価は芝馬と同等とまでは言えないまでも、その地位を着実に高めている。
だが、いまその日本のダートコースに変化が生じてきている。これまでダートコースに使われてきた青森産の良質な砂の資源確保が難しくなってきたのだ。これは青森に限らず全国的な問題で、建築資材としてコンクリートを作るためにも海砂など砂の採取が必要だが、長年に渡り採取し続けているため資源は枯渇してきているし、採取によって海岸線の浸食や生物環境の変化などの影響も現れてきているため、社会問題にもなっているのだ。そのため各競馬場ではオーストラリア・アルバニー産や愛知県(瀬戸市)産の珪砂を導入するようになってきたのだが、このいわゆる「白い砂」はこれまでの青森産の黒っぽい砂とはかなり特徴が違っている。硬度が高く、シルト化(砂の粒子が細かくなり粘土質になること)しにくい特徴があり、排水性が確保できることで降雨による馬場悪化を防ぎ、馬が滑りにくいため故障が減少するとも言われている。一方で、砂が固まりにくいということで、以前よりもパワーを要する馬場になっている。これまでのダートコースは降雨で重馬場、不良馬場になると、波打ち際が走りやすいのと同様に速い時計になっていたが、白砂馬場は馬場状態にほぼ関係なく力の要る馬場となっていて、走破タイムも以前よりかなり掛かるようになっている。
現在のところ、名古屋、笠松、金沢競馬場が愛知県産、園田、姫路、門別、船橋、大井競馬場がアルバニー産の珪砂を全面的に取り入れている。JRAは各地の砂を混合しているが、今年5月時点で公表されている砂成分は、阪神競馬場はアルバニー産40%、小倉競馬場はアルバニー産30%、京都競馬場は愛知県産15%とアルバニー産5%、中京競馬場は愛知県産45%、東京競馬場は愛知県産20%の珪砂を補充砂として使用している。珪砂が占める割合が高い中京、阪神のダートコースは、以前よりも時計が掛かる馬場になっているように思える。補充を繰り返していけば、珪砂の比率はさらに高まってくる。
力の要る馬場になると、大型馬がより有利な条件となる。オープン級、準オープン級のレースが多く組まれている大井競馬の4月14日から5月2日のメインレース計10競走の1〜3着馬の馬体重は、1着馬は平均490・5キロ、2着馬は平均500・2キロ、3着馬は平均498・1キロだった。出走馬の平均は467・2キロで、明らかに上位を大型馬が占める結果となっていた。この10競走の中には小柄な3歳牝馬による東京プリンセス賞も含まれており、このレースが平均を押し下げていてこの数値であり、それを考慮すれば500キロ前後以上の馬格がないとレベルの高い大井競馬のメインレースでは勝負にならないことが伺える。ダートグレード競走の東京スプリントは1〜3着馬がいずれも500キロ以上だった。馬格的に見劣る牝馬が牡馬相手に好勝負をするのは、以前よりもさらに至難の業になってきている。
砂の資源不足は一朝一夕に解消するものではなく、今後もオーストラリア産珪砂の輸入に頼る度合いがさらに高くなることが予想される。まだ正式なデータは出ていないが、白い砂になって馬の故障が減少するのなら素晴らしいことだ。また白い砂は見栄えもきれいで、ナイター時は騎手の視界も確保されやすいなどのメリットもある。だが大型馬、牡馬ばかりがもてはやされる風潮になってしまうことは生産者にとっては頭が痛い。実際、昨年のセリ市を見ていても、大型牡馬は高値で取引されているものの、小柄な馬、牝馬はなかなか買い手がつきにくい状況だった。大型馬を生産しようとして小柄な牝馬や初産の牝馬を大型種牡馬と交配すると、難産となり出産時の事故が多くなることも予想される。珪砂を導入していない盛岡、高知競馬場など、小柄な馬、牝馬でも活躍の場が確保できるように、白い砂の導入をこれ以上は増やさないようにしていくことを考えていくことも必要なのではないだろうか。