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競馬コラム北の国から vol.156

競馬コラム北の国から vol.156

 今年最初の3歳クラシック・桜花賞はジョアン・モレイラ騎手が騎乗したエンブロイダリーが優勝した。1番人気エリカエクスプレスが軽快に逃げる展開だっただけに各騎手とも仕掛けどころが難しかったはずだが、モレイラ騎手騎乗の3番人気エンブロイダリーは好位の内側でコースロスを最小限に抑えながらじっと我慢し、4角でも外には回さずに馬群を縫うように前を捉えていき、外から追い込んだアルマヴェローチェを首差退けて優勝した。翌週の皐月賞でもモレイラ騎手が騎乗した3番人気ミュージアムマイルは、圧倒的な1番人気クロワデュノールを外に見ながらコース内側でじっと待機。クロワデュノールが仕掛けてもまだ動かず、4角では一瞬できたスペースを捉えて一気に外に持ち出し、先に抜け出していたクロワデュノールをあっさりと差し切った。エンブロイダリー、ミュージアムマイルとも3番人気の人気馬だったが、これは「モレイラ人気」があってこそのもので、他の騎手だったら5〜6番人気でも不思議はない戦前の成績だった。特に大本命のクロワデュノールを突き放したミュージアムマイルの強烈な末脚は、これまでのレースからは到底想像できないものだった。  

モレイラ騎手は3月29日から短期免許で来日騎乗した。3月30日の高松宮記念のサトノレーヴは直線を向いても馬群の真ん中で前が壁になっていたが、一瞬の隙を突いて外に持ち出して差し切り勝ち。4月5日のダービー卿チャレンジTのトロヴァトーレは終始最内を回って、直線はその最内が空くのを待ってから追い出して差し切り勝ちと、コースロスを徹底的に避けて、どんなに前が壁になっても必ず前が空く時があるとじっと待ち、脚を最大限に温存させた上でゴール前で爆発させるというレースで、4週間でGⅠ・3勝、GⅡ・1勝。さらに大井のJpn3東京スプリント競走もエートラックスで制している。モレイラ騎手は「マジックマン」の愛称で知られているが、まさにマジックのように、ワープしたかのようにいつの間にか先頭でゴールしている。騎手としてのレベルの違いを見せつけているように思える。L・デットーリ騎手、J・マクドナルド騎手、R・ムーア騎手、W・ビュイック騎手、C・ルメール騎手、C・デムーロ騎手、武豊騎手らも世界的な名手であるが、現時点ではモレイラ騎手が頭ひとつ抜けているのではないだろうか。  

短期免許の期間は1回1か月までで今回の短期免許は4月28日までとなっており、エンブロイダリーのオークス、ミュージアムマイルのダービーはいまのところ騎乗者が未定となっている。短期免許は1年間で最大3か月まで取得できるため、モレイラ騎手が再度申請することも可能だが、短期免許は同時期に5人までという制限があるし、モレイラ騎手自身もその時期にブラジルでのレースがあるため、継続して騎乗できるかどうかは判らない。モレイラ騎手が騎乗できなければ、最初の1冠を制した馬であっても2冠目は1番人気に推されない事態になるかもしれない。  

以前モレイラ騎手は日本での通年免許取得を希望していた。当時は香港に所属しシンガポールを拠点としていたモレイラ騎手は、2018年にJRA騎手免許試験を受験したものの、1次試験で不合格となってしまった。実績のある外国人騎手に対しての1次試験は騎乗技術試験と体力測定などは免除され、筆記試験は英語で受験できる。だがその内容は競馬関係法規、中央競馬の騎手として必要な競馬に関する知識で、口頭試験は日本語となっている。それを合格したとしても2次試験でも競馬法規など学力の口頭試験、騎乗技術に関する口頭試験は日本語のみで行われる。2015年に2回目の受験となったM・デムーロ騎手と、初受験のC・ルメール騎手が合格しているが、穿った見方をするとJRAデビュー後の2人の活躍があまりにも華々しかったことが影響して試験が厳しくなったのか、その後はD・バルジュー騎手(2015、16年)、M・ミシェル騎手(2022〜24年)、そしてモレイラ騎手と、いずれも1次試験で不合格になっている。バルジュー騎手もイタリアのリーディング騎手であるし、ミシェル騎手はフランスで女性騎手年間最多勝を記録している。いずれも短期免許で日本でも活躍しており、実績は十分なものがあった。むしろ、短期免許で騎乗し活躍している騎手が、通年では「不適格」となってしまうことの方が「短期なら競馬法規を十分に理解していなくても騎乗できるのか」ということになってしまい、より大きな問題であるようにも思えてしまう。  

プロ野球、大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなどのプロスポーツでも外国人登録の人数制限は行われている。日本人選手を育てるために、ある程度の制限は必要だろうし、外国人ばかりになってしまうとファンの興味を失いかねない懸念も出てくる。だが競馬の場合、あくまでも主役は馬である。また、日本人騎手が欧米などで長期間騎乗する際に、就労ビザ(在留資格)の取得が厳しかったり、騎乗馬が確保できないなどのケースはあるだろうが、厳しい免許試験を課せられているという話は聞いたことがない。私個人としても、もちろんナショナリズムは持っていて日本人アスリートの活躍は毎日の楽しみにもなっているが、馬券を購入する一競馬ファンとしては、国籍を問わずその馬の能力を100%近く引き出すことが出来る名手の騎乗を期待してしまう。  M・デムーロ騎手、C・ルメール騎手に続いてJ・モレイラ騎手が通年で騎乗してくれれば、それを間近に見ることが出来る日本の若手騎手の育成にもプラスになるに違いないと思うのだが、皆さんはどうお考えだろうか。