お酒とマナーのマリアージュ 第7回

皆さま、こんにちは。お酒とマナーのマリアージュへようこそ。
パンデミックを経て、お酒を飲む意味が、変わってきたようです。世界的にアルコール消費量は減少し、日本でも飲酒のスタイルは多様化しています。最近では、「ソーバーキュリアス(※1)」や「スマートドリンキング(※2)」といった言葉も耳にするようになりました。お酒を飲む・飲まないを自分のスタイルとして、主体的に選ぶ時代になっています。また、体調やその場の環境に応じて、飲酒量や飲み方を自分でコントロールすることも自然なマナーとして根づきつつあります。
私が国際線に乗務していた頃のこと。さっきまで笑顔でお酒を楽しんでいたお客さまが、突然“ストン”と電池が切れたように意識を失う―そんな場面に何度も出会いました。飛行機内は気圧が低く、空気も乾燥しがち。最近の機材では、湿度の調整はできるようですが、それでも、機内はアルコールが回りやすく、地上の2倍酔いやすいと言われています。
お酒が進むお客様には、水をお持ちして「思ったより酔いやすいので、お水をどうぞ」と声をかけていました。「大丈夫、大丈夫」と笑う方ほど危ない。お水をすすめられるのは、“お酒はほどほどに”という静かなサインでもあるのです。さらに水分を取ることは、身体の脱水を防ぎ、血流を保つうえでも大切です。長時間同じ姿勢をとるフライトでは、エコノミークラス症候群の予防にもつながります。
こうした気配りは、地上の飲食店でもすぐに活かせます。例えば、強いお酒にはチェイサーを添える、空腹時に勧めすぎない、飲みすぎの兆候にそっと気づく。そんな心くばりが、お客様にとって安心できるサービスになります。
一方で、飲まない方にとっての楽しさも広がっています。ノンアルカクテルやティーペアリング(※3)、見た目にも華やかなモクテル(※4)の提案は、グラスの中身に関係なく「乾杯の一体感」を演出します。お酒を飲まなくても、「一緒に楽しめる場づくり」がこれからのサービスに求められる大切なことかもしれません。
お酒はこれまで、冠婚葬祭や祭事のお神酒など、社会的・文化的な役割を担ってきました。そして、今、飲まない人を含めた多様な楽しみ方が、新しい文化を形作ろうとしています。
また最近では、若い世代の間で、アルコールは人間関係をなめらかにする“きっかけ”として、少しだけ飲むという選択をする人も増えています。飲む理由も飲まない理由もさまざま。だからこそ、飲酒には多様性とやさしさが求められているのです。
飲食店にとっては「飲めるならたくさん飲んでほしい」と思うのが本音かもしれません。でも、量を追う時代はもう終わりです。味わいや品質、そして料理とのペアリングなど、「お酒の体験そのもの」に価値を見出すスタイルが広がっています。ノンアルを含めたドリンクメニューを充実させるお店も増えてきました。アルコールを飲まない方が「選ぶ楽しさ」を持てるように工夫することは、その場全体の満足度を高めます。例えば、ペアリングコースにお茶や発酵ドリンクを取り入れると、飲む人・飲まない人が同じテーブルで、自然に会話を楽しむことができます。
「飲む人も、飲まない人も、誰もが心地よく過ごせる空間」それこそが、これからの飲酒の文化であり、マナーであり、おもてなしの形なのでしょうか。
【 ことばの豆知識 】
(※1) ソーバーキュリアス (Sober Curious)
Sober(しらふ)+curious(好奇心)から生まれた造語。あえてお酒を飲まないライフスタイルを選ぶ考え方。
(※2) スマートドリンキング (Smart Drinking)
時と場合、機会や体調にあわせて、飲酒スタイルを柔軟に選ぶ考え方。飲む量・飲まない判断もふくめて「自分をコントロールする」意識を大切にする。
(※3) ティーペアリング (Tea Pairing)
料理に合わせてお茶を楽しむスタイル。香りや味わいの相性を考えながら、コースに合わせてお茶を選ぶことで、ワインのようなマリアージュを演出。和洋中問わず広がりつつある。
(※4) モクテル (Mocktail)
Mock(真似る)+cocktail(カクテル)からの造語、果汁やハーブ、シロップなどを使って作る、見た目にも華やかなノンアルカクテル。
