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お酒とマナーのマリアージュ 第5回

お酒とマナーのマリアージュ 第5回

 皆さま、こんにちは。お酒とマナーのマリアージュへようこそ。  
8月、暦の上では立秋とはいえ、暑さの真っ盛り。照りつける陽射しの中、ご来店くださるお客さまには、まず「涼」を感じていただきたいものです。実は、お酒の提供においても、この「涼感」は大切なおもてなしのひとつです。  
今回は、夏ならではの“グラス”に注目して、香りや温度・口当たりを引き立てるサービスマナーをご紹介します。

〈夏のお酒とグラスの関係〉
お酒の印象は、器ひとつで大きく変わります。
特に夏は、グラスの温度や状態がダイレクトに口当たりへ影響するため、繊細な配慮が必要です。たとえば、白ワインやスパークリングワインは、しっかり冷やして提供するのが一般的です。キリっと冷えた酸味が立った味わいは、暑い季節にぴったりの爽快感をもたらします。
ただし、ワイングラスまで、冷蔵庫で冷やしてしまうのはおすすめできません。結露で水滴が入り風味を損ねたり、冷蔵庫の匂いがグラスに移って、繊細な香りを台なしにしてしまう可能性があります。 一方、クラフトビールやハイボールなどは、グラスはよく冷やすことで、炭酸のさわやかさや泡の質を保ちやすくなります。お酒の種類に合わせたグラスの温度管理が、夏のサービスの鍵となります。

〈ひと工夫で印象が変わる「グラス冷却術」〉
ほんの少しの工夫が、グラスの涼しさを効果的に演出してくれます。
• 氷水に数分沈める
冷蔵庫よりも氷水でグラスを冷やす方が、効率よく均一に冷えます。ただし、ワイングラスは、冷やし過ぎないことが肝心です。軽く涼しさを感じる程度にして、提供前には水滴をふきとって、清潔で乾いた状態を保ちます。

• 二重構造グラスを活用する
クラフトビールなどは、保冷機能のある二重構造のグラスもおすすめです。温度の変化をおさえつつ、泡の持ちもよくなります。

• 結露の“見せ方”を味方に
グラスに自然と浮かぶ水滴(結露)は、涼しさの演出にもなります。ただし、テーブルが濡れないように、コースターやドリンクマットの準備も忘れずに。

〈氷を使うときのマナー〉
夏にはロックスタイルの提供も増えますが、「氷」の扱い方にもひと工夫を。
• できるだけ透明の水を選ぶ 濁った氷は、せっかくのお酒の美しさを損ねてしまいます。お店で製氷する場合も、毎日チェックして整えておきたいものです。

• 音を立てすぎない 氷をグラスに落とす音が店内に響くと、せっかくの静けさや会話のリズムを壊すことがあります。丁寧なトングさばきも立派な“マナー”です。

〈ソフトドリンクにも心配りを〉
暑い時期は、ウーロン茶や炭酸水などのソフトドリンクの注文も増えます。このときに注意したいのが「氷」の有無です。「氷なしで」と希望される方は少なくありません。理由は、「身体を冷やしたくない」「味が薄まる」「結露で手が濡れるのが不快」などさまざまです。 特にリピーターや年配のお客さまには、「氷はお入れしますか?」とひと声が好印象につながります。一度伺った好みは、次回以降にそっと反映できる、より心に残るサービスに。「氷なしでよろしかったでしょうか」——そんな一言が、安心感を生みます。

〈グラスを手渡す瞬間にも「涼」の余韻を〉
お客さまにグラスをお出しする時にも、心地よさを込めることができます。
• 手の熱が伝わらないよう、ステム(脚)や底を持つ

• 「お待たせいたしました。冷たいグラスでどうぞ」など一言添えるこの ささやかな所作が、お酒の記憶をより豊かにする手助けとなります。

思い出されるのは、客室乗務員時代のひと幕です。お酒が自由に飲めない国に駐在されていたお客さまのために、ドライアイスで冷やしたグラスと日本のビールをご用意しました。当時は機内には冷蔵庫がなく、ドライアイスでの冷却は一苦労でしたが、曇ったグラスの表面と、立ち上がる2㎝ほどの泡をじっと見つめ、やがて一気に飲み干されたその横顔には、言葉にできない喜びが浮かんでいました。“この一杯のために帰国されたのかもしれない”——そんな思いが、今も心に残っています。
暑さがつづく時期こそ、「冷たさ」は味の演出だけでなく、接客の余韻にもなります。一杯のグラスに心を込めて、お客さまの五感を満たす—そんなおもてなしを目指したいですね。 それでは、また次回をお楽しみに。

愛甲香織