酒と思索の迷宮『いつもの宵の、酔い語り』第64夜

旨いものはまだあった!
私には「死ぬ前に食すべき5品目」という面白い記事を何かで読んだ記憶があって、誰が書いたか、いつ読んだかも曖昧なままだ。が、かなり感心したので、それを真似て私もいつかこのページで語ろうと思い、私版「死ぬ前に食すべき5品目」という駄文を記してある。
つまり、死ぬ前にもう1度食べておきたい好物を羅列してあるのだ。しかし、最も声高に語りたい品目の写真が見つからなかったり、行数がページ内に収まり切れなかったりして完成を見ないままだ。が、いつか追加したい食べ物が、いつ何時現れるかも知れないし、自分としても寿命を自分で決めてしまうみたいで、なんだからこれはこれで良いとも思っている。
この5品目は豪華でもなければ有名店の美食でもない。希少かつ、逸品でもなく、探せば即入手可能な普通の食べ物ばかり。つまり私の日頃の好物というだけの話である。それでも、もう他には挙がらないだろうという厳選に厳選を重ねた好物ばかりだ。
こんな話をいつもの飲み屋でちょっと仲間内に漏らしたところ、「なんだ、酒の肴ばかりじゃないか!」と冷やかしとも、嘲笑ともつかない反応ばかり。
しかし実際の所、挙げた5品の他には全く思いつかないから、自分の食生活は酒と共に回っていると思わざるを得ないのであります。
そこで、これら5品と共に飲む酒も補足として挙げなければ片手落ちになる。しかし、これには私が世界中で飲み倒した品のない酒歴の長さや、ウイスキー等の蒸溜酒探求の熱意が絡んでいるから熟考を重ねているうち、取り敢えず手元にある酒ならば何でもいいか!となってしまって、再び嘲笑を浴びたのである。
そんな折、弟から2~3酒の肴を用意してあるから引き取りに来ないかとの有り難い誘い。で、桃を手土産に出かけてみれば、小さな段ボールの中には有り難いことに大好物の「鯨ベーコン」と「ホタルイカの素干し」が詰められていた。
このホタルイカは私が挙げた「死ぬ前5」には入っていないが確かに好物である。
どのくらい好きかと言えば、NHKの地方ニュースで、富山の某漁港の夜の岸壁に人々が玉網を持って集い、暗い海中から神秘的な光を発しながら集まって来るホタルイカを掬っている光景を見て、翌年の同時期に北陸ツーリングと称して、ホタルイカ掬いを目論んでオートバイを走らせたくらいだ。当然、折り畳みの玉網持参である。
しかしこの夜、その岸壁にはホタルイカの大群は押し寄せず、2~30匹ばかりのホタルイカがフラフラと浮いたのみ。そこに20人ばかりが一斉に網を突っ込んだから、群れは散ってしまい2度と姿は見せなかった。
大阪から来たという人が「昨年は100匹以上獲れたが今年はダメで、運良く4匹を掬ったから1匹あげる」と言ってくれたので、缶ビール(だけは用意してあった)を開けて、生きたままのホタルイカをたった1匹だが、岸壁で食べて感激した。翌日、物産店で瓶詰の「沖漬け」をお土産に買って帰った記憶が瞬時に蘇った。
(茹でた)釜揚げは、私の地元のスーパーでも手に入るから時々買ってはいたが、「沖漬け」は絶品だった。そして今回貰った「素干し」は初めての経験で、弟はこれをライターで焙って食べると最高だと言い、袋にも“ライターで”と念押ししてある。1匹づつライターで、というのも面倒だから台所のガスでまとめて焙ったのだが、小さな魚体?の中の僅かなイカワタの凝縮された濃厚な風味、旨味が焙ることで数倍増幅されて、表現不能レベルの旨味が口中に広がる。
しかし、焙ったものが冷めると味わいは半減することも判明。1匹づつライターで!という理由がまさにこの1点にあったし、その面倒な手間も味わいに大きく関与することも同時にわかった。そしてこの夜、素干しのホタルイカも、私の「死ぬ前5」の境界線上に突如加わったのである。
旨いものはまだあったのだ!