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酒と思索の迷宮『いつもの宵の、酔い語り』第61夜

酒と思索の迷宮『いつもの宵の、酔い語り』第61夜

完敗。カレーライスに負けた!

 米の値上がりが続いて久しい。私の記憶では最初の異変は、九州での地震で「南海トラフ」大地震を警戒するようにとの警告が発せられた直後で、米の買いだめに走った人がかなり出た。ま、これは集団ヒステリーの一角であろうと私は高を括っていたのである。が、実際はこれが米飢饉の始まりだった。  
それでも「米が不足する」という事はこれまでもなかったから心配などはしていなかった。それがどうだ。米価は上がり続けついには騒動以前の倍以上という事態に。  
不足=価格の高騰は市場原理そのままだからどうにもならない。が、米の場合は日本の食糧生産の基本構造の貧しさと、政府の農林政策の無策さが相乗作用しているのに加え、世界に例を見ない日本独特の「問屋」という中間搾取業者が2重、3重に存在して価格を吊り上げているのだ。そしてこの構造部分に農水省のリタイア組が大挙して天下っているのである。これが私にはどうにも我慢ができない。だからこの際、腹立ちまぎれにコメ断ちをして、自分なりに怒りの表明をするつもりになったのである。  
しかし、自分の意志薄弱さは自分が一番良く知っているから、コメ断ちには一大決心を要する。自分にとっては天変地異的な一大決心なのだ。  
かつて「1984年11月4日」に禁煙をした時の苦しさ、辛さは今でもその日時をはっきりと覚えている位だからそのストレスの強大さは想像を絶した。が、一日に60本以上も吸っていたタバコを断つなど、私には到底無理だと思っていた禁煙に、ただの1度で成功した自信はその後の人生に大きく影響している。  
で、今回は主食である米だ。私の食生活は昼食がメインで米食が中心だ。1日3食の内、最もキチンとした食事。納豆に味噌汁、魚、卵系のおかずを中心に相当にしっかりと食べる。たまに麺類という事もあるけれど基本はやはり米。これを断つとなると食生活そのものをそっくり変えねばならない。  
しかし、私の人生の何%かを過ごした海外の旅で、ご飯が恋しくて仕方がないという事はなかった。食事が口に合わない国のNo.1はアメリカで、挽肉が嫌いな私にとってハンバーガーなんぞは論外。必然的に食べるものが相当制限されるが、全米何処に行こうと、どんな田舎であろうとまず間違いなく存在している中華屋が私を救ってくれた。レストランでもテイクアウト専門でも、ファーストフード店でも中華味は皆それなりで口に合う。  
日本での食事がいかに懐かしかろうが、その欲求のご本尊はご飯ではなく、いわゆる“醤油系の味”であることがこれらの旅の経験から私には分かっていたから、今回の米断ちにはちょっと自信があったのだ。ただ、米断ちの食卓から、納豆だの干物だの海鮮系の“ご飯の友(共?)”、つまり好物のおかずが失われることが耐え難いのである。  
で、米断ちはそれとなく始まった。私のご飯の代用は主に麺類で、これにお好み焼きが加わった。ここ1年ばかり朝はパンだし、夕食はアルコールを美味く飲むための“ツマミ”が中心で穀類は無いから昼食だけ考えればよい。  
納豆に全卵2ヶにネギを加えて、ソーメンのつけ汁代わりにしたり、スパゲッティに納豆を和えたりという珍メニューの登場や、ソバに焼き魚や刺身を添えたりと考えつくことは全てトライ。1ヵ月ちょっとの米断ちでは心構え鉄壁の私にはストレスもほぼ感じられなかった。が、意外なところから綻びがやって来た。  
伏兵はカレーライスだった。普段はあまりカレーに有難味を感じていなかった私が、俄かにカレーが食べたくなったのだ。ご飯ではなく、ナンではどうかとカミさんは言うが、ここは一番“カレーライス”でなければ気が済まない。しかし、値上がりの酷い米を買っては本末転倒。私の住む田舎には備蓄米も廻ってはこない。  
悔し紛れにカリフォルニア米を買った。  
完敗。まさかカレーに鉄壁を破られるとは……。