営業日の午後4時30分までのご注文で当日出荷!

サイトリニューアル後、ログインができなくなったというお問い合わせをいただいております。
アカウント有効化の手続きを行いますので、お手数おかけいたしますが、「お問い合わせ」よりご連絡をお願いいたします。

酒と思索の迷宮『いつもの宵の、酔い語り』第58夜

酒と思索の迷宮『いつもの宵の、酔い語り』第58夜

何と、クジラが来ました!

 さて。当誌2022年6月号と7月号(21夜、22夜)のこのコラムでは、いつも散歩に行っている海辺の公園の、かつて愛犬と共に座って寛いでいたいつものベンチに一羽の野鳥(磯ヒヨドリ)がやって来て、私の靴先にとまったことを書いた。  
毎日同時刻にやって来ては、私の手からパン屑を貰って啄ばむこの鳥に、亡き愛犬が姿を変えて私に会いに来たと本気で思い込み、犬と同名のゴン太という名前を付けて、3週間ばかり親しく接して心が安らいだという内容だったと思うが、今度は何とそのベンチのすぐ先に広がる海にクジラがやって来た。  
私はクジラやイルカは大好物なのだが、これまで生きたクジラを見たことはただの一度もない。だから、散歩仲間からクジラがいるようだとの話を聞いた時は半信半疑。ほんとかいな?!と疑って、イルカと見間違いでは?とも思い、場所、時間、その時の様子等の目撃情報を根掘り葉掘り聞き出した。しかも、その公園で見知った程度の人にまで、クジラを見たかどうかを訪ねては情報収集に専念。  
で、「潮を吹いた」の一言から話の信憑性は一気に高まって、目撃情報の多い早朝を狙って翌朝から早速ホエールウォッチングに出かけることに。私の散歩時間は通常、日没間近な夕方なのだが、野次馬根性が急激に高まって、散歩時間を急遽早朝6時にシフト。  
しかし、ウォッチングと言っても何もすることはない。ただ海を見下ろす散歩道の脇の大きな石に座って、ただボーッと海を見ているだけ。  
見方によってはジィさんが徘徊している様にしか見えないから、双眼鏡を持つことにした。  
そして1日目は空振り。2時間の徒労であったが2日目に、ちょっと遠かったがついに私もクジラを目撃。即座に車に取って返し、カメラとレンズ、そして3脚を持ち出したのだった。  
このカメラ&レンズは、私のかつての表稼業(オートバイと車のレース撮影)用の機材で、ここ何年も持ち出したことはない。だからこれらを車に積み込んでいる時、カミさんに「虫干しでもするの?」と呆れられた事もあって、何が何でもクジラを撮影しなければ気が済まなくなっていたのだ。  しかし取って返した時には既にクジラは去った後。この日はさらに1時間の徒労の後、撤収という事に。  
そしてその翌日、あいにくの曇天で、空と海が全く同色というコンディションながら到着と同時にカメラをセットしてスタンバイ。待つこと40分。ついにクジラは姿を現した。しかし撮影にはかなり無理な距離と暗さ。それでも連続して10枚ばかりシャッターを切る。これを逃せばもうチャンスはないかもしれないのだ。モータースポーツとは畑違いのネイチャーフォトの困難さを身を持って体験したのだった。  
さらに翌日。天気は回復したが海は波立って微細なクジラ出現の予兆を感じることは無理な状態。しかし私は諦め切れずにじっと待機。そうこうするうちに、かつての犬の散歩仲間やら顔見知りやらが6人ばかり通り掛かって私の傍で立ち話。  
話はほぼ、クジラ目撃の貴重さを語り、中には大ジャンプを見た人が2人ばかりいて、ダイナミックさとその迫力を絶賛するばかり。皆、親クジラで擁護派だ。そして彼らのクジラ話の輪に、実は私はクジラ肉が大好物ですと告白するのは罪悪なような雰囲気が醸成されて、話の輪に加われない惨めな自分がいたのであります。  
しかしよく考えてみれば、クジラ撮影に夢中になっている自分のこの瞬間は、間違いなくクジラ愛の人間なわけで、その一方、鯨ベーコンや竜田揚げの美味しさは絶対に捨てたくないという、自分の中の、二律背反に戸惑うばかりでありました。  
自分の中のジキルとハイド。酒の場では鯨ベーコンが最強の肴という「コウモリ人間」。呆れたものです。