酒と思索の迷宮『いつもの宵の、酔い語り』第57夜

「英国のメシは不味いのか?」の続き
先月は「英国メシは不味いのか?」について一席やらせてもらったが、ちょっと言い足りない部分もあるので再度コキ下ろさせてもらう。異論、反論、炎上も多々あるとは思うのだが、やはり不味いものを美味いとは言い難いので、私的には意見を取り下げるつもりはないのであります。
そもそも、美味い不味いは個人的な嗜好に大いに左右されるし、その民族間に伝えられた伝統の味というものも各々個人の脳内に沁み付いていて「好みの傾向」が表れる。だからイギリス人には馴れた味も外国人には受け入れ難いという事もある。しかし、同じヨーロッパ人からも不評な英国メシはどう評して良いのだろうか。
私はある時、名店の味ならばいけるのではと思い立って、ホテルのフロントで予約してもらった「ローストビーフ」の一流店に出かけてみた。メインディッシュのローストビーフは無論のこと、付け添えの「ヨークシャー・プディング(プリン)」がまたこの店の名物だと聞いて楽しみにしていた。
結果、確かにローストビーフはそれなりの味であり、本場の味とはこういうものなのかと納得はした。しかし、名物だと触れ込みのプディングなるものには????となった。小麦粉に塩だの牛乳だのを練り込んで焼いたフワフワした麩(ふ)菓子崩れといった風情。単に美味い不味いでは形容しがたい味。その上、量もまたメインの肉を圧倒する量であり、ローストビーフの存在を台無しにしかねない。これを名物とする英国の食事情の特異さに呆れ返ったのである。
そもそもローストビーフにしても、最も単純かつ簡素な調理法であり、それだけに焼き加減に秘伝も工夫もあるのだろうが、手をかけない料理には違いない。この辺りで私はイギリスの料理は手を掛けなければ掛けないほど吉だと気付いたのであります。つまり、食材に対する調理法の創造力と想像力の展開と盛り付けが決定的に欠けているという結論に達したのである。
さらにもう1品、最悪名物。このプディングの翌日。ロンドンはイーストエンドの名物だというウナギを験しに出かけた。ローストビーフはウェストエンドというハイストリート(上流地区)の名物だから、同じロンドンでも下町のイーストエンドという漁師町の名物を狙ったのだ。そして、ここで眼に入った何軒かの名物ウナギの専門店の中で、適当に嗅覚を働かせて店を選んだ。
ウナギ料理と言ってもメニューはたったの1品。「ウナギのゼリー寄せ」のみ。たまげた。ウナギは丸のままブツ切り(輪切り)し、塩とレモンで煮込んでゼリーで固めただけ。味は推して知るべしである。元々は屋台店があっちこっちにあったらしいのだが、現在では衰退して専門店が何軒か残って名物としているらしいのだが、私には専門店が専門店として生き残っているのが奇跡にさえ見える。
大体、ウナギを割いて開くという展開が思いつかなかったのだろうか。いくら何でもブツ切りとは…。それをまた透明なゼリーで固めてあるから、ブツ切り具合いが透明なゼリーの中に鎮座している様は食欲をかなり削ぐ。
かつてイタリアで食べたウナギも味こそイタリア風だったのだが、ウナギ本体は日本のように開きになっていた。この辺りの展開方からしてぶっきらぼうだ。
しかし考えてみれば、私には「かば焼き」という食べ方が脳内に擦り込まれているから、同じウナギを比較して不味い!と思う訳である。が、結局、料理や味の好みが人それぞれにがあるからこそ成立していることを実感した次第である。
結論を言うと、私のイギリス滞在中は中華、インド、中華、インドと日替わりで突撃して何とか滞在期間をやり過ごすことにしたのである。イギリスはかつての自国の植民地からの移民に寛容だった歴史があるから、何処の街に行っても中華とインド料理店はあるし、味は本場物で、間違いが無いのである。