酒好きを育てた秋田の日本酒

酒屋に勤めていると必ずと言ってもいいほど聞かれる質問の一つが「一番好きなお酒は?」である。ワイン、ウイスキー、焼酎、スピリッツ…有難いことに様々なお酒を飲む機会がありどれも魅力的だということは大前提に、お酒の種類で言えば、私が一番好きなのは日本酒だ。そんな私の酒飲み人生のスタート地点、秋田県での思い出話を一つ。
九州出身の私は、縁あって秋田県にある大学へ進学した。言わずもがな酒処であり、スーパーや町の酒屋さんにはずらりと地酒が並んでいる。お酒はもちろん日本酒の知識もない私だったが、何を飲んでも美味しい秋田の地酒にすっかりハマってしまった。そして、地元出身の先輩や同期は揃ってお酒が強い。その中でも同じクラス、同じサークルで特に仲のいい友人宅を訪れた日のこと。
十一月の中頃だっただろうか、初冬の東北の寒さで鍋も日本酒も特に美味しい時期だった。二人で小さなこたつに入り、寄せ鍋を食べようとしている時、友人がとっておきの宝物を見せびらかす子どものような笑顔で、ジャーン!と取り出した一本が、天の戸の純米大吟醸だった。友人の父親が贈ってくれたというその黒い一升瓶を早速開栓。瓶の口から甘美でふくよかな吟醸香が漂う。当時は吟醸香などという表現は知らなかったはずだが、輝くシルクのようなその香りは今でも思い出せる。
個人的に、秋田のお酒は鍋との相性が天才的に良いと思う。綺麗で澄んだキレと程よく芳醇な味わい。するすると飲めてしまうが、料理に負けることなく素材や出汁の味との相乗効果を生んでくれる。まあ、そんな分析はしない大学生二人、鍋をつつきながら杯が進む進む。早々に鍋を平らげたが、まだ飲みたいねぇということでおつまみに切り替え。他愛もない話をしながら、あっという間に一升瓶が空いてしまった。二人で飲み干すつもりは無かったのに、これは飲みすぎだ!と大笑いしたことを覚えている。
この日に限らず、秋田で過ごした数年間はお酒と人と笑顔の思い出で溢れている。もちろん失敗も多々あるが、相変わらず私は、お酒が紡いでくれる繋がりに魅了され続けているし、その魅力をもっともっと広めていきたいと考えている。
庄司酒店Y