一杯で変わる店づくり 第三回

私が2015年、東京開催の第1回からMCを務めている日本酒試飲イベント「和酒フェス」。本イベントは、日本各地の酒蔵が一堂に会し、日本酒を中心に梅酒や焼酎などを自由に飲み比べできる機会として、東京と大阪でそれぞれ年3回、年間6回前後開催されています。季節ごとに出品酒が入れ替わるため、その時期ならではの味わいに出会えるのも大きな魅力のひとつです。
規模としては、東京では40蔵以上・200種を超える銘柄が並び、大阪では20〜30蔵・100種を超えるお酒が集結。来場者数は1回あたり約1,600〜2,000人にのぼります。特徴的なのは、日本酒愛好家に限らず、若い世代や外国人など“これからの顧客層”が多い点です。飲み比べ形式という気軽さもあり、「初めての一本」を探しに来る方も多く見られます。和酒フェスは、日本酒の新たなファンを生み出す“入口”として、確かな役割を果たしているのです。
飲食店にとって注目すべきは、このイベントが単なる試飲の場にとどまらない点です。短時間で多くの銘柄を比較試飲できるため、メニュー導入の判断がしやすく、カタログやスペックだけでは分かりにくい味わいやバランスを、実体験として把握することができます。また、蔵元や蔵人がブースに立っているため、酒の背景や造りの意図、適した提供温度や料理とのペアリング提案などを直接聞ける点も大きな価値です。こうして得た情報は、日々の接客において“語れる価値”となり、提案力の向上にもつながっていきます。
さらに見逃せないのが、来場者のリアルな反応を観察できる点です。どの酒に人が集まり、どの味わいにどの層が反応しているのかをその場で確認できるため、自店のお客様層に合った商品選定のヒントが得られます。いわば、1,500〜2,000人規模の“実地マーケティング”を体感できる場とも言えるでしょう。
例えば、庄司酒店でも人気の高い「五橋」酒井酒造は、酒井社長自らがブースに立ち、来場者に酒を振る舞いながら率直な感想を求める姿が印象的です。たまには酒井社長も、来場者の皆さんと一緒に乾杯~♪こうした造り手と飲み手が直接向き合う場だからこそ、単なる評価にとどまらない“生の声”が交わされ、そこから新たな気づきや関係性が生まれていきます。
和酒フェスは、消費者にとっての“発見の場”であると同時に、飲食店にとっては“仕入れ・情報収集・顧客理解”を一度に叶える貴重な機会です。ここでの出会いが新たな一杯となり、メニューの幅を広げ、ひいては店の個性や差別化につながっていくことでしょう。
現在、「和酒フェス」に限らず、日本各地で多様な日本酒イベントが開催されています。それぞれに異なる特徴と出会いがあり、現場に足を運ぶことでしか得られない情報があります。飲食店の皆様には、ぜひこうした“現場”を積極的に活用していただきたいと思います。一杯との出会いが、店の未来を形づくる大きな一歩になるはずです。
