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お酒とマナーのマリアージュ 第16回

お酒とマナーのマリアージュ 第16回

 皆さま、こんにちは。お酒とマナーのマリアージュへようこそ。  
太陽がまぶしく、ビールがおいしい季節になりました。  
「クラフトビール」という言葉を耳にするようになって、ずいぶん経つように感じます。ビールに限らず、ワインや日本酒、ジンなど、さまざまな飲み物にその広がりを見ることができます。さらには、料理や器、日用品に至るまで、「クラフト」という考え方は、私たちの暮らしの中に静かに根づいてきているように思います。  
飲み物の世界では、苦味の強いもの、香りを楽しむもの、果実のような風味を感じるものなど、その味わいは驚くほど多様です。選ぶ楽しさもまた、クラフトの魅力のひとつなのかもしれません。自分に合う一杯を見つけることが、楽しみになってきているように感じます。  
クラフトという言葉には、「手仕事」や「技術」といった意味があります。その一杯の中には、つくり手のこだわりや試行錯誤、そして土地の風土までもが込められています。  
そこには、いわば“職人”の仕事が息づいているともいえるでしょう。  
欧米では、クラフトはすでに日常の中に根づき、それぞれの土地の個性を味わう文化として親しまれてきました。伝統を大切にしながらも、新しい発想を取り入れ、ゆるやかに進化を続けています。  
一方、日本でも近年、クラフトへの関心が高まり、つくり手の想いや背景に目を向ける流れが生まれてきました。コロナ禍を経て、日々の暮らしを見つめ直す中で、ものづくりへの関心も、自然と高まってきたのかもしれません。  
どのような思いでつくられたのか。なぜこの味になったのか。その一杯は、どこの誰かが、どんな思いでつくったのだろう。そんなふうに想像してみるだけで、味わいは少し変わってくるように思います。  
先日、クラフトビールをいただいたときのことです。つくり手の背景や思いを、さりげなく一言添えてくださったことで、その一杯の向こうにあるものと、つながっていくように感じました。  
お酒を楽しむマナーというと、形を思い浮かべることが多いかもしれません。けれど、その一杯の向こうにあるものに目を向けることも、大切なのではないでしょうか。  
つくり手の時間や工夫に思いを巡らせる。その背景にある物語に、そっと触れてみる。そんな向き合い方も、ひとつのマナーといえるでしょう。  
たとえば、こんな場面があります。地元の小さな醸造所でつくられているクラフトビールは、柑橘のような香りがやわらかく広がると評判です。 「こちら、地元の小さな醸造所のもので、柑橘のような香りがやわらかいタイプなんです」  
お客様の目の前にお出ししたあと、タイミングを見て短く一言添える。メニューをご覧になって、ふと顔を上げられたその瞬間に、そっとお伝えする。お客様の表情がふっとやわらぎ、その一杯を通して、静かな共感が生まれることがあります。多くを説明しなくても、その一杯に少しだけ心を向けるきっかけをつくる。  
そんな関わり方もまた、おもてなしのひとつです。  
最近は「ストーリー」という言葉をよく見聞きします。多くを語る必要はありません。提供するものの背景や、つくり手の想いを、ほんの少し添えること。それは、提供するものに丁寧に向き合うことでもあります。  
お店が、その一杯の背景に、目を向ける。そのひと手間が、その場にやわらかい空気を生み出すことがあります。そうした関わりがお客様に安心して楽しんでいただける時間につながっていくのかもしれません。

ことばの豆知識 - クラフト(craft)
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