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データで読み解くインバウンドの「飲食・酒」考現学 vol.3

データで読み解くインバウンドの「飲食・酒」考現学 vol.3

海外のチップ文化 vs ニッポンの「心づけ」

今号は、「お通し」文化(前号特集)とも関わりのある、訪日客のチップ事情にスポットを当てました。チップ文化は18世紀英国の階級社会に由来とも言われ、後に海を越え米国へも移り、サービス業拡大と相まって米国は“チップ大国”となりました。訪日客が拡大中のニッポン、チップ文化の「ある」と「ない」を通して、インバウンド対応のヒントなど発見できればと思います。

View1. 世界のチップ文化圏

チップ(Tip)≒ ニッポンの「心づけ」

✓Tipの語源は、“To Insure Promptitude”(迅速な対応を保証)や“Take It Please”(どうぞ納めて)の頭文字だそうで、サービス代金とは別に渡すお金=ニッポンの「心付け」の感謝の行為にも一部通じますが、そもそものチップ制度や慣習は国によって意味合いが異なります。

チップが「当たり前」の国は意外と少ない実態

✓世界的には約7割がチップ非文化圏。チップが制度や慣習となるのは米国文化の影響が強い国々(主に北米)。

✓非文化圏アジア―中国、韓国、台湾等では観光客がチップを渡す光景も見られますが、ニッポンはほぼ皆無でチップが「当たり前」の外国人は 戸惑いや違和感も感じるようです。

✓ところが、この違和感が「良質なサービス」という称賛にも変わり、ニッポンの飲食文化の好感度と満足度に大きく貢献しています。

普段、「チップを渡す人」の国別傾向

✓「チップを渡す人」の国際比較データがあります。上位のドイツと米国は大半の約8割、米国人の上位は当然ですが任意の国ドイツ人の上位は意外です。ニッポンでいう「心づけ」=感謝の意識が高いのかもしれません。

✓英国、スペインは半々、フランスやイタリアは3人に1人程度。チップ文化圏に入る国々ですが、飲食店等のサービス料込みや任意の感覚の一般化もこの数字が示しているようです。

「チップを渡す人」の割合(頻度)
View2. 「チップ大国」米国の込み入った事情

サービスの“密度”が関係しているチップ頻度

✓米国のサービス分野別のチップ頻度は上のグラフのとおり、サービスの「質×時間」が強く影響していることが分かります。

✓最上位のレストラン(フルS)は81%、時々含め9割以上。2位は理髪店・美容院65%、米国ならでは。以下はフードデリバリー59%、バー(酒場) 53%、タクシー43%、の順となっています。

 ✓バー(酒場)の業態は、レストランの義務的チップとは異なり中間的な見方が表れています。チップは単なる制度や習慣ではなくサービスの 「質×時間」が消費者の心理を動かすベースになっているようです。

一様ではない米国・消費者のチップ意識

✓近年の米国民対象のアンケート調査では、従来のチップ文化に疑問や抵抗感までもつ消費者が増えています。

✓調査結果で最も多いのは「良いサービスに対する報酬」56%、社会的通念を示す数字です。他は、「社会的プレッシャーから」15%、「少ない 報酬のスタッフのため」24%。チップが日常文化の米国でも実際は一様 ではない気持ちも表れています。それは下記データのとおりです。

チップに「疑問」や「悩んでいる」人たちが年々増加

「求められる場面が増え過ぎ」 72%
「強制されていると感じる」 67%
「できれば払いたくない」 40%以上
✓コロナ禍の影響でサービス業デジタル化がチップ機運を促進。全般的にチップを要求される機会が​「過去5年より​増」と困惑気味。チップ制度に対し、約6割が否定的のようです。

✓米国のチップ制度は産業障壁と指摘する人もいます。その意味ではチップ大国は「チップの再定義」の時期を迎えている模様。もしかすると、ニッポン流のノーチップ文化、あるいはチップ感覚(心づけ)が活かされる時でもあるかも知れません。

チップ文化は日本の「心付け」にも似たところもありますが、その意味や価値は少し異なります。ニッポンの飲食等の場面でのチップを巡る問題も多々あり、また、デジタル化の波が一層複雑にしていることも、世界的な傾向のようです。その点では欧米のチップ文化は変わりつつあり、ニッポンのノーチップ文化に対する見方も何か変化する兆しもあるのではないでしょうか。

View3. ご当地ニッポンの見方

飲食サービス業を活気づけている“姿勢”

✓チップ文化の無いニッポンは世界的にも知れ渡り、飲食店等のサービスの質に対する評価は高まっています。一方で「チップを受け取らない」、「気持ちが通じない」、「心を閉ざされた」と感じる人がいるのも現実。

✓「お金よりも心」という姿勢は外国人としては新鮮で、また懐かしい感覚も加わるのかもしれません。「優れたサービスにチップ不要」という文化が飲食サービス市場を賑わせている土台とも言えそうです。

ニッポンにも既にあるチップ的な慣習・文化

✓例えば、「お土産」、「差し入れ」や「手書きの一言」。仲間へ「お世話さま」の品等、これら全てサービスや受けたことに対する気持ちを伝える対価的とも言える行為です。

✓訪日客から見ればニッポンは日常的に「チップの気持ち」がある国、「自然なチップ行為」を表すニッポン人という見方も一般的です。

気持ちの新たなタッチポイントの役割も⁉

✓お金のチップを渡す文化が無いニッポンですが、サービスの質は発信側の行為や情報が評価の対象であることには変わりません。その意味では、先ず情報自体の特性を知ることが大切になります。

✓いくつかの調査では、人に実際伝わる情報の1位は視覚(55%)。次は聴覚(38%)で、話自体はわずか7%という結果。非言語的な情報が人を動かす重要ポイントであることも分かりました。

✓お礼とはいえ現金は受け取れない店が多いニッポンの場合は感謝の気持ちを伝える手段やタッチポイントがほとんどない現場を考えると、チップ行為は飲食サービス場面でマッチするケースもありそうです。

✓居酒屋やレストラン等のレジ脇などに設置のチップジャーやチップフリー用BOXなどがその例ですが、様々な検討の余地もありそうです。

気持ちの新たなタッチポイントの役割も⁉
View4. キャッシュレス化とチップ文化の行方

「チップフレーション」が起きているチップ大国の現実

✓過剰なチップ要求+お金のインフレ“Tip+Inflation”合成語=チップフレーションは上記が社会問題に。キャッシュレス化、デジタル化は本来ならスマート・サービスに繋がる面があるが、ここでは逆現象になっています。サービスの質とはかけ離れた実態も表しています。

ノーチップ or チップフリー文化との相性

✓デジタル化はサービス業の課金方法の拡張の反面、消費者側のストレスにもなります。この意味では、飲食サービス上の人同士の肌感覚のあるいわば“感情の交差”があるかどうかは一番の「鍵」と言えます。

✓「お金で測りづらい」サービス文化は、チップが当たり前の外国人にとっては「居心地の良い」「特別な瞬間」を感じる場面です。 ご参考までに、その現場に合いそうなチップ制(訪日客、国内向け)の具体例もご紹介します。

❶伝票やテーブルに「スタッフ応援はこちらから」と二次元コードを掲示し、クレジットカードや電子マネーで少額チップの仕組み。応援を狙いとするデジタルチップ(2次元コード決済)

❷ディナータイムや個室利用時のサービス料=チップ設定。スタッフ還元のサービス料(Service Charge)として店内やメニュー上に分かりやすく賛同も得られるガイド表記。

❸店内のレジ横などの目立つ所に、「美味しいドリンクへ一票」や「スタッフ笑顔代」などキャッチーなメッセージを出し、ついついお金を出したくなる遊び感覚もあるチップ専用ボックス(Tip Jar)の設置

ニッポンのサービス精神が世界の見本にもなる

✓ノーチップ文化、お金に依存しないニッポンのサービス精神は、インバウンド市場で異才を放っています。そこには次のようなセットが、備わっています。
「料金」=サービス対価が明確な安心感  
「接客」=誰にでも平等に高品質サービスを提供
「感謝」=「心づかい」と「言葉」で体現
これらは、ノーチップや「心づけ」文化、あるいはポスト・チップ文化における世界のモデルになる可能性を秘めているのではないでしょうか?

こちらの特集は、『コミュニケーション科学研究所』のご協力のもと調査。社名の通り“コミュニケーションを科学する”視点を持ちながら、調査研究をしています。
あらゆる分野において膨大な情報より分析・解析がされ、その実績は多岐にわたります。