データで読み解くインバウンドの「飲食・酒」考現学 vol.2

“Otoshi”(お通し)って、どういう存在!?
訪日客の飲食・飲酒に関わるメディア情報や調査データを見ると、ニッポンに強い興味と期待をもつ人たちの世界中への広がりが分かります。とくに、SushiやRamenに代表されるニッポンの食文化の人気は、Izakaya(居酒屋)など各地での“酒場”と出会うシーンも多々見られます。今号は、その出会いの中で文化摩擦として話題にものぼる「お通し」文化にスポットを当てました。では、その前に訪日客の“酒場”との接点など見ていきます。

「食」と「街歩き」、そして「日本の酒」への期待!!
✓訪日旅行の期待度トップは「日本食」83%。2位以下は「ショッピング」 61%、「繫華街・街歩き」52%、「自然・景勝地」49%。「日本の酒を飲む」 も35%でベスト5です。
✓訪日客は、「ショッピング」や「街歩き」と「日本食」や「酒」、それが 関わりあうニッポンを楽しむ様子もうかがえます。
✓訪日客が増えている米国や豪の人はニッポンは心身ともに安らぐ テーマパーク(Well being park)やHealthyイメージが強いようです。
✓さらに、治安が良く安全で礼節性とニッポン特有の心(お遍路、Zen などスピリチュアル面)と身体(温泉や健康な日本食)、長寿国の生活 も期待度アップに貢献しています。
個人が発信するSNS上での推しが影響
✓訪日客の全体で「役立った情報源」(複数回答)でトップ3は「動画 サイト35%、SNS33%、個人ブログ27%」。次に「自国の親族・知人 18%、日本の親族・知人16%、旅行関連ホームページ12~16%、 口コミサイト13%」と続きます。情報源は広く利用しながら、最終的 には個人発信の動画・SNS・ブログを頼りにしているようです。
✓台湾、タイ、韓国人は主にGoogle、NAVERなどの検索エンジンで、 SNSはYouTube使用率が高く、中国人は観光地・宿泊情報は主に Ctripを使い、グルメや買い物情報はREDやTikTok等の使用率が高い ようです。
✓台湾は親戚・家族・友人の口コミ重視。さらに台湾と中国は、SNSの 人気インフルエンサー情報KOLを参考としています。一方でタイや 韓国は、YouTube・NAVERなどプラットフォームを利用の傾向があり ます。

ニッポン文化体験の入口にもなる“Izakaya”
✓飲食店に対する訪日客の反応は、各種調査データでは総じて高評価 を維持しています。その背景は上図のような言葉が示しています。
✓Delicious(美味しい)、Authentic(本物)、Atmosphere(雰囲気が 良い)など、料理や雰囲気へはポジティブな反応。その反面、Otoshi (お通し)やCover charge(チャージ)など料金に関するネガティブな 反応(戸惑い)もあります。
✓海外の旅行ガイドは「Izakayaに行かずして日本食文化は語れない」と、 既にIzakayaに代表されるニッポンの酒場は文化体験のゲートウェイ (接続点)になっているのではないでしょうか。

一つの街と“酒場”の界隈性が人を惹きつける
✓日本食の人気とともに、Sake=「日本の酒」の存在の高まり、同時に 訪日客の飲食の機会や場面も多様化。Izakaya(居酒屋)をはじめ、 高級感+HospitalityのOmakase(割烹料理)やKaiseki(懐石料理) から、食堂/レストランのTeishoku(定食)など、プレミアムからスタン ダード(一般向け)まで多様な飲食店の共存が人を惹きつける大きな 誘引力になっています。 その意味では、Izakayaは期待と興味を一緒に体験できる場所として、 国や民族を超えて好まれる大きな理由ではないでしょうか。
ニッポンに根付いている席料含めた少料理を提供する「お通し」文化。関西では「つきだし」とも言われ、その言葉の由来も微妙な違いもあるようですが、海外にはない「制度+料金」を含んだ慣習・用語の点ではニッポン独特です。海外にもイタリアのCoperto、スペインのTapas、英米のCover chargeといった類似例もありますが、それらとは別ものです。では、小さな一皿「お通し」の“世界”をご紹介します。

“Otoshi”(お通し)はどのような存在なのか!?
✓訪日客は理解しづらい「お通し」。日本でも飲食店により扱いは様々。 最近の飲食店の扱い方の調査結果(上記)によると、改善の余地も 多そうです。
✓「定期的にお通しメニュー変更」42%、「お通し説明を目立つ所に明記」 25%、「お通し説明している店」は全体の1/4と意外に少なく、一方で 「お通しカット可能」22%、「外国人には不提供」16%と、対応に控えめ な飲食店も多少あります。
✓飲食店の「お通し」代の有無をコロナ前(2018年)と比較すると、「とる」 50%は12%減少。その他に「席料」をとる店が6%増加、「いずれも 無し」も6%増加しています。
提供側「お店」の“言い分”…Yes派とNo派
【Yes派】
○入店時「席料+チャージ」を説明しており納得のうえ提供(東京/バー)
○ドリンク一杯以下は「席料+お通し代」で客単価確保(大阪/居酒屋)
○3品一皿で提供。米が売りで一品は必ず日替りお粥。店のストーリーも 説明。考えない提供はナンセンス(東京/居酒屋)
○お客が手持ち無沙汰な時間対応、手の込んだもの提供(大阪/居酒屋)
○お気持ち代としてレジ横の『投げ銭』箱で対応(東京/アジア料理)
○日本はメニューが安価、お通しは営業上の苦肉策(大阪/ダイニングバー)
○メニューに明記しているので問題なし(東京/バー)
【No派】
×外国人に理解してもらえないことが多く、丁寧な説明が必要だが実際 は難しい(東京/イタリア料理)
×お通し、サービス料、チップなど分かりにくいので排除し、他メニュー に上乗(東京/バー)

困惑 vs.納得へのヒント
✓「お通し」の訪日客の反応、欧米はCover chargeとして理解が得や すい一方、アジアでは「違和感・損得感」でネガティブな評価につながる 傾向があります。
▶不信感が生じる-中国、韓国、ドイツ、北欧(注文にないもの)
▶比較的に理解-イタリア、スペイン、英国(小皿・席料システム)
▶説明でほぼ納得-米国、豪州(契約社会)
✓共通の問題点は料金ではなく「説明がない」こと、意思疎通そのもの がYesかNoに影響しています。訪日客目線の「分かりやすさ」とは、 単に言葉だけではありません。入店前や注文時は「視覚的な情報」 がトラブルを未然に防ぐ鍵になっています。
例えば…
a)海外の有名バーでは、House Policy(店の方針)を明記したボード を店頭や入店直後の目につく場所に掲示。
b)写真やアイコンを交え「指差し」で分かるPOP、言葉を越えスムーズ な合意形成が可能。
✓House Policy(店)は、Seating(席)やDining(食事)のPolicyも欠かせず、「納得して入店してもらう」プロセスを仕組み化することが、お通し を「想定外の料金」から「日本文化の体験」へと変える第一歩となります。
他国にはない飲食文化の導線役“Otoshi”
✓Otoshiは、単語としての説明より料金+文化的な意味の両方を合わ せた伝え方が理解へのKeyファクターとなります。
✓提供する側の「店らしさを伝えたい」、「美味しいものを最初から」、 「季節感やストーリーを添える丁寧さ」などの想いと気概が、「意外な もてなし」、「印象的スターター」など訪日客のウレシイ想定外にもつな がっています。
「必要なの?」という疑問が…「なるほど!」にも変わり、“Otoshi”に始まるニッポンでの飲食は、さらに魅力的な時空間として受け入れられることでしょう。世界共通のFirst・Foodでは味わえないのが「お通し」(Otoshi)です。
こちらの特集は、『コミュニケーション科学研究所』のご協力のもと調査。社名の通り“コミュニケーションを科学する”視点を持ちながら、調査研究をしています。
あらゆる分野において膨大な情報より分析・解析がされ、その実績は多岐にわたります。