お酒とマナーのマリアージュ 第13回

皆さま、こんにちは。お酒とマナーのマリアージュへようこそ。
四月の空気とお客様の心
四月。新年度が始まり、街の空気ががらりとかわる季節です。入学や就職、異動に引っ越しなど、前向きな話題が多い一方で、環境の変化に、少し気を張っている方も多い時期です。 飲食店を訪れるお客さまの様子も、この時期は様々です。新しい仲間とにぎやかな会話を楽しむ方もいれば、カウンターの隅で、自分の時間を過ごしたい方もいる。ひとりでも、複数でも、その日の空気感は一様ではありません。
家でも職場でもない場所
最近、「居場所」という言葉を耳にする機会が増えています。家や職場とは別に、もうひとつ、気持ちを置ける場所が、求められています。「サードプレース、第三の場所」とも言われています。 飲食店は、まさに「第三の場所」として語られることがよくあります。特別な理由がなくても、気軽に立ち寄れて、心地よい時間をすごすことができる。それ自体が、居心地につながっているのかもしれません。 そうした居心地は、何か特別な対応があるというより、自分のペースでリラックスして過ごせたときに、自然と感じられることが多いように思います。
関わりすぎない、でも離れすぎない
マナーの基本は、「相手の立場にたって、心を配ること」。基本に立ち返ると、居心地の良さは、“特別な足し算”によって、生まれるものではないようです。第三の場所としての作法は、実はとてもシンプルです。 関わりすぎず、かといって、離れすぎないこと。緊張がつづく四月には、このバランスが、心くばりの大切なポイントになるでしょう。
JAL時代に学んだ「察する」という判断
客室乗務員をしていた頃、常に、「話しかけるか、控えるか」という判断をしていました。たとえば、映画を見たり、新聞や本を読んでいるお客様には、こちらから、積極的には声をかけません。 けれど、お飲み物が少なくなったタイミングで、そっと視線を合わせる。「気にかけております」とサインを送ります。一方で、目線があった方には、短い一言を添えます。会話を広げるかどうかは、その反応を見てから決めていきます。こちらの都合で距離を詰めない、でも、見ていないふりはしない。この「つかず離れず」の感覚は、飲食店の現場でも共通する「大人の間合い」ではないでしょうか。
四月にすすめたい、リラックスできる一杯
四月は、新しい環境に身を置く場面が増え、知らず知らずのうちに、心身が緊張したまま来店される方もいらっしゃいます。そんな時に大切にしたいのは「何を飲むか」よりも、「どう口に運べるか」、という視点です。
1.刺激がつよすぎないこと
2.急かされないこと
3.自分のペースでの飲めること
気持ちが張りつめているときほど、飲み物や食べ物の刺激は、想像以上に強く感じられるものです。だからこそ、「元気をつける一杯」よりも安心して口に運べる一杯を、おすすめしたいところです。 日本酒であれば、香りや味わいが主張しすぎないもの。ワインなら、軽く飲み進められる白やロゼ。ビールも、苦みが前に出すぎないタイプや泡がきめ細かい優しいもの。少量で香りを楽しめるリキュールを選ばれる方もいます。微発泡のスパークリングウォーターや香りのよいハーブティーなどソフトドリンクを選べると安心につながります。 おつまみも同様です。塩味や香りが強すぎるものより、ナッツやドライフルーツ、軽いチーズなどは、リラックスにつながる食材として知られています。
声をかけるなら、言葉は短めに
「おつかれさまです」
「ごゆっくりどうぞ」
「今日は軽めのものもあります」
説明を重ねずに、ホッとする短い一言が、心にしみます。にぎやかにすることも、放置することもない。その間にある「ほどよい距離感」がお客さまの肩の荷をおろします。 四月は、リラックスして口に運べる一杯と控えめな心配りが、また立ち寄りたくなる居心地をつくるでしょう。その小さな積み重ねが、店を「また帰ってきたい場所」にしていくのだと思います。
今年度も、お客さまに喜ばれるマナーのヒントを、季節の空気や時代の変化にも目を向けながら、お届けしていきます。どうぞよろしくお願いいたします。