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お酒とマナーのマリアージュ 第8回

お酒とマナーのマリアージュ 第8回

 皆さま、こんにちは。お酒とマナーのマリアージュへようこそ。  
11月は二十四節気で「立冬」を迎え、暦の上では、冬の始まりです。今年は残暑が長引きましたが、朝晩の冷え込みが増し、鍋や根菜の料理に心ひかれる時期となりました。季節感のある食材は、その場の会話や雰囲気を豊かにしてくれます。お酒もまた、旬を感じさせる大切な文化のひとつ。中でも、この時期の代表選手は、「ボジョレー・ヌーヴォー」です。  
フランス・ブルゴーニュ地方のボジョレー地区で、その土地で収穫したブドウから造られる新酒。毎年11月第3木曜日に解禁され、世界中に届けられます。日本でも一時は、深夜0時のカウントダウンで乾杯するイベントが大流行しました。現在は、お祭り騒ぎから、“旬”を味わうワインへと位置づけがかわり、落ち着いたスタイルで楽しむ方が増えています。  
ボジョレーの特徴はガメイというブドウ品種にあります。軽やかでフルーティな味わいが魅力で、飲みやすさの中に酸味と華やかな香りが広がります。実はガメイは、ソムリエ試験の勉強を始めると、最初に徹底して味を覚える品種です。私自身も繰り返しテイスティングを重ねた記憶が鮮明に残っています。シンプルでありながら、奥深く、新酒でも「その年の個性」を映す力があります。  
乗務員時代も、11月の解禁にあわせて機内でお客様に提供をしていました。小さなカップでも「今年の新酒をどうぞ」と笑顔が生まれる―空の上で、季節を共有する特別感を感じたものです。旬を味わう体験は、人の心を豊かにするのだと実感しました。  
ボジョレー・ヌーヴォーを美味くいただくには、いくつかのポイントがあります。

①冷やし過ぎないこと
12度前後が理想です。冷蔵庫から出した直後では香りが閉じてしまいます。

②グラス選び
ブルゴーニュ型の大ぶりのものより、中ぶりで、果実香を引き立てる形が向いています。

③注ぎ方
少し高めの位置から、トクトクトクと軽やかに。空気に触れさせることで、ワインの華やかさがひきたちます。

④「早めに飲み切ること」
新酒はフレッシュさが命。翌日以降に持ち越すと、魅力が薄れるため、その場で楽しんでいただきましょう。  
日本人がボジョレーを特別に楽しむのは、マーケティングの成功もありますが、古くから「旬を尊ぶ文化」が根付いていたからかもしれません。新茶や初鰹など、初物をありがたくいただく風習は、二十四節気に支えられた生活の知恵です。  
二十四節気とは、太陽の動きにあわせて、1年を24の節目に分けた暦で、農作業や食生活の目安として、日本人のくらしに根付いてきました。立冬は、暦の上で、冬の始まりであり、旬を意識するきっかけです。この感覚があるから、ボジョレー・ヌーヴォーは、ワインの初物として自然に受け入れられたのでしょう。  
世界を見渡すと、各地に初物ワインを楽しむ文化があります。イタリアには「ノッベッロ」と呼ばれる新酒があり、ボジョレーより早い10月末に解禁されます。南半球のオーストラリアやニュージーランドでも5月頃に新酒が登場し、その年の味わいをいち早く楽しむ習慣があります。国ごとに季節や収穫時期に合わせて、初物を祝う文化があり、日本の「旬を尊ぶ心」ともどこか響き合っているようです。  
旬の食材との相性を考えるのも、この季節の楽しみです。牡蠣は白ワインが定番ですが、ボジョレーの軽やかさともよく合います。甘味を増した柿と生ハム、キノコや根菜の煮込みなど、果実味を引き立てる料理は豊富です。お客様に「この時期ならではの組み合わせ」を一言そえることは、飲食店ならではのおもてなしです。  お店にとって大切なのは、季節をどのように演出するか。メニューに「解禁」「初冬限定」と添えるだけで、特別感が生まれます。サービスの際に、「今年は果実味が豊かです」「例年より軽やかです」と一言添えれば、お客様はグラスの向こうに今年の物語を感じ取るでしょう。単にワインを提供するのではなく、季節のストーリーを一緒に届けることは、マナーを越えたプロの心配りです。  
お酒は単なる嗜好品ではなく、季節を映し、人をつなぎ、会話を広げる存在です。  
11月の風物詩、ボジョレー・ヌーヴォーをきっかけに旬の食材とともに季節を楽しむ。その体験を提案することは、お店にとって大切なおもてなしであり、お客さまにとっても心に残るひと時になります。

【 豆知識 】
お酒を飲まない方への配慮
ボジョレー・ヌーヴォーには、正式なノンアル版は存在しません。AOC規定で「発酵ぶどう酒」であることが必須だからです。ただし、同じガメイ種を使ったノンアルワインや産地のぶどうジュースは紹介されています。飲まない方には、果実味を感じられる飲みものを合わせれば、旬を共有する体験が楽しめます。

24節気:立冬
(立冬食材:ぶり、こはだ、里芋)

愛甲香織