一杯で変わる店づくり 第一回

皆様、はじめまして。これから本連載を担当させていただきます、島田律子です。「日本酒スタイリスト」として、日本酒の魅力や可能性を、さまざまな角度からお伝えする活動を続けています。どうぞよろしくお願いいたします。
いま私が特に力を入れているテーマが「日本酒のペアリング」です。近年は「ペアリング」という概念も一般的になりましたが、日本酒と料理の関係は、昔から私たちの食卓の中にあったものです。刺身にはすっきりとした酒、煮物には旨味のある酒、寒い季節には燗酒を合わせる―。その土地の酒と食材を合わせる“ローカルペアリング”は、理屈というよりも、感覚と経験の中で育まれてきた、日本酒らしい文化だと思います。
大きな転機となったのは、1990年代以降に広がったワイン文化でした。マリアージュという概念が浸透し、日本酒も香りや甘辛、酸味などを整理し、言葉で説明する動きが活発になります。「吟醸酒は前菜に」「純米酒は肉料理に」といった提案が生まれ、日本酒は“なんとなく合う”から“理由があって合う”へと、より論理的に語られるようになりました。
そして今、日本酒ペアリングはさらに進化しています。鍵となるのは、日本酒が持つ“旨味”と“包容力”。アミノ酸を豊富に含む日本酒は、出汁や塩味、発酵食品と驚くほど相性がよく、料理の旨味を引き立て、ときに増幅させます。また、冷酒から燗酒まで温度で表情を変えられる点も大きな強みです。温度設計まで含めた提案は、日本酒ならではの体験価値といえるでしょう。
さらに2024年には、「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、日本酒は世界的にも注目を集めています。造り手の意識も変化し、世界の料理と響き合う酒質を目指す蔵が増えています。このような流れの中で、日本酒は、和食だけでなく、フレンチやイタリアン、中華、またチーズやスイーツにまで合わせていく提案がなされ、更には、単なる相性論だけではなく、コース全体を設計し、時間や空間まで含めて演出する“食体験のデザイン”へと広がっているのです。
「料理との相性」という視点から日本酒を評価できないか―そんな思いから生まれたのが、先月号でも紹介された「シェフが選ぶ美酒アワード」です。和食、フレンチ、イタリアン、中華の第一線で活躍する料理人が、“料理を引き立てる日本酒”を選ぶという新しい評価軸を打ち出しました。私は総合プロデューサーを務めています。受賞酒はいずれも、料理と調和し、新たな魅力を引き出してくれる美酒ばかりです。(庄司酒店さんでも、受賞酒を多くお取り扱いいただております)
今や飲食店にとって、日本酒はただメニューに置くだけの存在ではありません。料理に合わせて背景や味わいを語り、的確に提案することでお客様の体験価値は大きく高まり、客単価の向上にもつながります。日本酒は単なる「選択肢」ではなく、店づくりを支える「戦略」となり得る存在なのです。
連載第一回は、「日本酒のペアリング」についてお伝えいたしました。
本連載では、日本酒の新しい楽しみ方や、その可能性をさまざまな角度から探ってまいります。次回はまた違った視点から、日本酒の奥深い世界をご紹介いたします。
どうぞ末永くお付き合いいただけましたら幸いです。
